- 作者: 原武史
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/09/19
- メディア: 新書
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ここまでスリリングに読み解いているのに驚いた。
驚いたというのは失礼だが、他の資料と照らし合わせて、実録に書かれて
いないことを推理するのは見事だった。
つまり、公式の記録に、何が書かれてあって、何が省略されていて、何が
書かれていないか、をあぶり出してみると、昭和天皇がどんなことを考え
ていたのかが見えてくるのである。
ひとつは昭和天皇の母の影響力である。
これは同じく原武史の「皇后考」にもっと詳しく書いてあるはずだが、
昭和天皇との確執がかなりあったのではないか、と考えられていて興味深い。
もうひとつは、カトリックの影響力だ。
終戦後、昭和天皇が急速にカトリックの教えに接近していった経緯が分かって、
もし本当に改宗していたらどうなっていたのだろう、と想像してしまう。
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松山城のふもとに萬翠荘という洋館があって、重要文化財になっている。
この建物の完成直後に裕仁親王(当時)が宿泊し、将棋やビリヤードに興じた、
と実録に書かれているそうだ。
私も何度か訪れたことがあるが、当時のビリヤード台はもうないのだろう。
新嘗祭をサボってまでビリヤードに夢中になっていた、という話を読むと、
なんとなく若き日の昭和天皇にも人間味が出てくるような気がする。
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また、本書には原武史の鉄道オタクらしい記述もあってニヤリとさせられる。
たぶん、もっと鉄道関係のトピックを入れようと思えば入れられたのだろうが、
少しだけにとどめているのが良い。
あとがきにあるように、いまの天皇も憲法上は政治的なことに口出しできない
にも関わらず、どうしても政治的な存在になってしまうシステムがある。
私が読めるかどうか分からないが、「平成天皇実録」が上梓されたとき、いまの
安倍政権に危機感を持っていた記述が残されるだろう。
そのあたりの駆け引きを見てみたいものだ。