サルバルサン戦記

秦佐八郎という今の島根県生まれの医学者が、世界初の抗生物質
作った物語である。
伝記としてはとても面白かったのだが、はたして小説という形をとる
必要性があったのかは疑問。


おそらく、作中の人物を歴史上の人物と自由に会話させたい、と思った
ので小説にしたのだと思うが、作りが粗い。
キャラクターの後ろに岩田健太郎がいて、まるでパペットを操っている
ようだった。
これでは小説の技術が未熟と判断されても仕方ないのではないか。


もしかしたら、福岡伸一の「生物と無生物のあいだ」を意識したのかも
しれないが、文学性の優劣は明らかである。
生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)


むしろ岩田健太郎には藤原正彦の「天才の栄光と挫折」の医学者版を
著してほしい。
天才の栄光と挫折―数学者列伝 (文春文庫)
もちろん小説ではなく伝記形式で。
大昔の人でなくても、ここ50年ぐらいの医学者で、大発見をした人を
とりあげてもいいのではなかろうか。


たぶん、明治時代ならともかく、現代にもそういう人がいたの? と
いう変人がたくさん存在したと思うので。



多くの人がすでに指摘していると思うが念のため。
p 222 でベースボールを野球と訳したのは正岡子規となっているが、
正しくは中馬庚である。