電車の中の変な人

首都圏で電車に乗っていると、ときどき変な人がいる。
例えば、車掌のアナウンスを正確に真似ている人や、何かをブツブツつぶ
やいているような人である。


こういう人が乗ってきたとき、一般的にはあまり近寄らず、遠巻きに眺め
る。正直、かかわり合いたくない。


こないだ東京へ行ったとき、中央線に乗っていたら、その変な人がいた。
始発だった駅で、20代と40代の母娘らしい二人が座席に座っていたら、い
きなり坊主頭で小太りの男が乗り込んできて
「席を立ってください! 座らせてください!」
と言った。


母娘は怖かったのか、すぐに立ち上がって隣の車両へ移った。
男は2席を占領し、横座りになって窓に顔を向け、なにやらブツブツとつ
ぶやき始めた。
周りの人は、当然ながら見て見ぬふりをした。


彼はブツブツ言う以外は、特に実害もなく、中野駅で降りていった。
どうやって生活しているのか、ちょっと気になった。


さて、その翌日、私は山手線に乗っていた。
渋谷駅から新宿駅へ向かう途中のことだ。
車内で、やはり20代と40代とおぼしき母娘がいた。


20代の娘は、DSでクイズか何かをやっていたのだろう、隣の母に
「ねー、徳川の三代将軍って誰? 誰だっけ?」
と、しきりに訊いていた。
母親も知らなかったらしく
「あたしに訊かないでよ」
と言う。


娘の方が、あんまりしつこく母親に訊いているものだから、近くにいた
私は、つい
「家光です!」
と答えてしまった。


ギョッとしてこちらを見る母娘。
しまった、今度は私が電車の中の変な人になってしまった、と思った
ものの、時すでに遅し。


母娘は、そっと私から離れていったのだった。
申し訳ない。