追走

私が小学生のときの話である。
たぶん4年生ぐらいからだったと思うが、母はどこかに出かけるたびに私や兄を一緒に連れて
行った。


こう書くと何の不思議もないが、母は50ccのバイク(原付というやつですね)、私たちは自転車
である。しかも24インチぐらいの子供用の。


これで7〜8kmぐらいの距離は平気で行っただろうか。
子供だったので、心理的には長く感じていたのかもしない。


まともに原付が先に行くと、子供の自転車では追いつけないと思うかもしれないが、原付は
信号でいちいち停まらなければならない(自転車もだが)。
そうすると、母はときおり私たちを振り返って、ちゃんとついてきているかどうか確認する。
で、姿が見えると、またブワーッと走り出すのである。


どこまで行くか、私たちが知っている場所ならいいが、行き先を告げられず、とにかくついて
来いと言われて追いかけねばならないときは、ぐったりするほど疲れる。
ゴールが分からないまま全力でこがねばならないからだ。


帰り道は家がゴールと決まっているので、母は遠慮なく飛ばす。私たちが見えなくなっても、
もう振り返りもしない。
ちゃんと追走してこなければ、こちらが怒られるのだ。


子供のときは何の疑問も持たず、どこの家庭でもこういうことが行われていると信じていた。
当たり前だが、当時も今も、原付を自転車で追いかけている小学生なんか見たことがない。
普通は親子とも自転車である。今ならクルマを使うだろうし。


中学生ぐらいになると、さすがについて行くこともなくなったので、母を追走していたのは
3年間ぐらいだろうか。


なぜ、こんなことが行われていたのか。
まず、母はクルマの免許を持っていない。自分の親に対してこう言うのもアレだが、母はか
なり頭が悪いので、クルマの運転には絶対に向いていないし、当時は一家で2台目のクルマ
を持つのは金持ちだけだった。


なら、連れて行かずに留守番させればいいではないか、とも思う。
実際、私は留守番をしていたこともあるからだ。
だが、母は私たちをスーパーで買った食料品などの荷物運びに使っていたので、留守番
させるなんて夢にも思わなかっただろう。


私と兄が当時のことを話し合ったとき、これって虐待だったよね、という結論に至ったのだ
が、皆さんはどう思いますか?