水たまりの氷

幼稚園のころだったと思うが、ちょうど今ごろの季節に通園していると、水たまりに
氷が張っているのを見つけた。


子供だから、その氷がとても素敵なものに思えて、なんとか他の子にも見せてやりた
くなった。
私は氷をはがして、それを持っていった。
よくある話である。


水たまりに張ったものだから、半分は泥水だ。
氷は透明できれいだったけれど、溶けてぽたぽた落ちてくる雫は汚れていた。
それでも私は小さくなる氷を手に、早足で歩いて幼稚園に向かった。


到着して先生に氷を見せると、綺麗ねぇ、と言ってくれたが、早く入りなさい、とも
言われた。手を洗いなさい、と言われたような気もするが、このあたりは記憶を捏造
しているかもしれない。


ここから後のことは全く憶えていない。
たぶん、誰にも関心されず、氷も溶けてしまったのだろう。


自分が大切だと思っているものは、他人にとっては特に大切ではなく、持っていると
だんだん失われていく、ということを知ったのは、もっと後になってからだ。


今も、田んぼが広がるあたりの水たまりには氷が張っているはずだが、子供が持って
歩いているのを見たことがない。
そんな時刻にはまだ寝ているからだろう。


なんとなく、「よつばと!」の冬のエピソードで描いてほしいテーマである。