チンパンジーと人間

今日の朝日新聞チンパンジーの交尾について面白い記事が載っていた。
京都大霊長類研究所の橋本千絵という人が書いたもので、ちょっと引用する。

 チンパンジーは、複数の雄と複数の雌が一緒に暮らす複雄複雌の集団で生活している。雄と雌は
決まったパートナーを持たずに、乱婚的に交尾をする。


 私が現在観察しているチンパンジー集団は、オトナの雄が20頭近くいる。雌が発情すると、集団
内のほとんど全部の雄が発情している雌に群がる。雌は、きょろきょろとあたりと見渡し、交尾相
手になる雄を探し、次から次へと交尾を行う。時には、1分以内に2頭の雄と交尾をするというのも
見られるほどだ。


 一通りその場にいる雄たちと交尾をし終わると、雌も雄たちも休息する。1、2時間後、雄たちが
回復すると、雌は交尾を再開する。雌は、ほとんど採食もせず、こうした交尾と休息を1日じゅう
繰り返す。結局、雌が1日に行う交尾の回数は30回以上にもなる。


 こうした高頻度の交尾が1週間近く続いた後、雌の発情はいったん終了する。しかし、それで妊娠
するわけではない。これまでの研究によれば、こうした発情を6回ほど繰り返した後で、雌はよう
やく妊娠にこぎつけるというのだ。単純な計算では、雌のチンパンジーは、1回出産するために数
百から千回以上の交尾を行うことになる。

この後、なぜチンパンジーは妊娠しにくいのか、という話に続いていくが後半は省略する。


チンパンジーと人間のDNAは1%しか違わないという。
だからといって、単純にチンパンジーと人間を比較するのは乱暴な話だが、この発情期の交尾の
観察はとても興味深い。


というのも、人間はチンパンジーと違って一年中発情しており、中にはチンパンジー並みの交尾
回数を誇る女もいるだろうからだ。


ちょっと気になるのは、チンパンジーの雌は、どういう基準で雄を選んでいるのだろうか、とい
うことだ。乱交状態なので、相手は誰でもいいのかもしれないが、それで優秀な種が残せるのか
疑問だ。


例えば、ニホンザルのようにハーレムを作るタイプだと、最強の雄が雌を独占するので、強い種
が残るようになっている。雌には相手を選ぶ権利もなく、ただボスザルの子供を産むだけだ。


ところが、チンパンジーは相手をとっかえひっかえして交尾し、なおかつなかなか妊娠しないと
いう。ここが面白いところで、妊娠しやすければ、強い雄の遺伝子を遺しやすいけれど、妊娠し
にくければ、運のいい雄の遺伝子が遺る。


運のいい、というのは私の勝手な想像だが、これほど乱交していたら、父親が誰なのかはさっぱ
り分かるまい(というか、父親が誰かを気にするのは人間だけだから、別にいいのだけれど)。
交尾のとき、相手を何度もチェンジするのは、より多くの種類の遺伝子を集めておいて、偶然
選ばれたものだけが生き残るような仕組みではないか、と思う。


この場合、ハーレム型の集団であれば、雄の強さが第一の基準になり、その他の多様性は失われ
る可能性がある。ボスザルに致命的な遺伝的欠陥があれば、その集団の未来は暗い。
一方、チンパンジーの場合は、とにかく手当たりしだい交尾するのだから、どういうタイプの遺
伝子が遺るのか予想がつかない。
なかなか妊娠しにくいが、多様性は保証されるわけだ。


人間でいうと、ヤリマンと蔑まれる女が、実はチンパンジー型の戦略で子孫を残そうとしている
のかもしれない。その場合、相手の男がいろんなタイプだといいが、金持ちやイケメンに限ると
意味がないような気がする。


京大の先生に観察してほしいのは、チンパンジーの雌には好みの雄とそうでない雄がいるのかど
うかということと、発情期にはそのどちらとも交尾をするのか、ということだ。
もしチンパンジーの社会でイケメンとされる雄ばかりと交尾しているのなら、私の仮説は崩れて
しまう。


チンパンジーのイケメンって想像できないけど。