昨日、感想を書いた内田樹の「下流志向」に、スターウォーズは師匠と弟子の物語だ、という話が
書かれている。
映画の中ではいろいろなことが起こるのですが、いちばん面白かったのは、「ジェダイの騎士」
には「メンター（先達）」がいて、メンターには必ず弟子が一人いるというその構造です。『エ
ピソード２』と『エピソード３』では、弟子の方がメンターよりも腕前が上になってしまうとい
う逆説が物語の縦糸になっています。アナキン・スカイウォーカーがオビ＝ワン・ケノービより
も強くなってしまう。そして、「俺の方が才能がある。俺の方がもう師匠よりも強い」と言い出
して、悪の道へ走ってしまう。
弟子が師匠の持っている技術は自分のそれと比較考量可能であると考えたときに、師弟関係は
破綻します。アナキンは師のもとを去って、オビ＝ワンよりも強いメンターを求めて、銀河皇帝
の仲間になる。そうやって「フォースのダークサイド」に導かれて、ますます力を得たはずのア
ナキン・スカイウォーカーなのですが、これが最後に師匠のオビ＝ワンと対決したときに、ぼろ
負けしてしまう。
僕は見ながら「おお、奥が深いな」と思って、けっこう感動してしまったのです。
映画の細かい話に入ってしまうとつい興奮してしまうので、これ以上は踏み込みませんけれど、
とにかくジョージ・ルーカスはアメリカ人には珍しく師弟関係の力学とドラマツルギーに深い興
味を持つ人だということです。そのルーカスが出した結論が「師匠を持たないものは敗れる」と
いうことでした。
師弟関係で重要なのは、どれほどの技量があるとか、何を知っているとかいう数量的な問題で
はないんです。師から伝統を継承し、自分の弟子にそれを伝授する。師の仕事というのは極論す
ると、それだけなんです。「先人から受け取って、後代に手渡す」だけで、誰でも師として機能
し得る。僕はそういうふうに考えていますし、およそこれまで師弟関係について書かれたすべて
の言葉はそう教えていると思います。
そうか、スターウォーズってそういう見方もできるんだな、と思った。
そういえば、米国の映画で師弟関係を描いてヒットした作品というのはあまりないようだ。
「ベストキッド」ぐらいだろうか。
欧米の文化では、師弟ではなく父親から息子への伝達の方が重要なのかもしれない。
（ちなみに「ベストキッド」の主人公ダニエルくんの家庭は母子家庭だったと思う。
だから、ノリユキ・パット・モリタは師匠でもあり父親でもあったのではないか）
私が強烈に印象に残っているのは、中学生のときテレビで見たジャッキー・チェンの「酔拳」である。
これは中学生のときに見なければならない映画のひとつで、ちょうどいいタイミングで見られたのは
ラッキーだった。
映画では、最初ジャッキーは師匠のところから逃げ出すのだが、殺し屋に負けて股の間をくぐらされ
るという屈辱を受け、心を入れ替えて師匠の下で修行をする。
こういう強烈な動機付けがないと、誰かに弟子入りすることはないのかもしれない。
それにしても、酔拳の師匠のキャラクターは見事だ。
これを演じた袁小田は名優だと思うが、調べてみると「酔拳」の袁和平監督は彼の息子だったのね。
（我ながら自分の知識の薄さに呆れる）
残念ながら、袁小田は「酔拳」が公開された翌年の1979年に亡くなっている。
「酔拳」での師弟関係は、「スターウォーズ」の師弟関係のように弟子が師匠に疑問を抱くことが
ない。一度弟子になってしまえば、ずっと師匠を尊敬し、どんな厳しい修行にもついていく。
ときどきズルをしても、ちゃんと師匠に見抜かれてしまい、よりきつい訓練を課されるのだが、逆
に言えば、どんなときも師匠は自分を見てくれている、ということである。
これほど頼もしいことがあるだろうか。
しかも、映画の最後で、弟子は自分で独自の技を完成させて、見事敵を倒す。
勧善懲悪のパターンだといってしまえばそれまでだが、思春期にこういう作品を見て、師弟関係を
学ぶのも大事だと思う。
少年マンガの基本中の基本は、主人公が努力してどんどん強くなることである。
何の裏づけもない強さは、読者の信頼を得ることができない。
どうやって努力させるかはマンガ家の腕の見せ所だが、必ずしも師匠が必要なわけではない。
「ドラゴンボール」では、最初の方で亀仙人などの師匠が出てきたが、後半になると自分で修行する
ようになる。
この変化は、もしかしたら子供にとっての師弟関係の文化が失われていった過程とパラレルなのかも
しれない。根拠はないけど。
そうそう、「マスク・オブ・ゾロ」を見たとき、「酔拳」と構造がそっくりだったので驚いたことが
ある。あの映画は米国でヒットしたはずなので、意外と米国人も師弟関係のドラマが好きなのかもし
れないな。
本文と写真はまったく関係ありません
（ ´酈｀）＜河本師匠、見てくれてますか？
