1990年前後のことだったと思うが、晴海ふ頭でバイトをしたことがあった。
バナナを200箱ぐらい長距離トラックに積み込んでいる途中で、あまりの辛さに尻の
筋肉がつったこともあったのだが、それはまた別の話。
あるとき、米国産のグレープフルーツやレモンの検品を手伝う作業をした。
巨大な倉庫に入って、検査官が指示したダンボールを開いて、検品が終わったら片付ける
仕事だったと思う。
作業自体は楽なものだった。
しかし、倉庫は入ったときから強烈な薬の臭いがした。
入り口には、潜水艦のハッチのような回転式のハンドルがついており、外にはちょうど
病院の手術室で「手術中」というランプが灯るのと同じように、「燻蒸中」(くんじょう
ちゅう)というランプがあった。
恐らく、港で荷揚げされた柑橘類は、一度この巨大な倉庫に運ばれて密閉され、大規模な
燻蒸消毒をするのだろう。
半日ぐらい倉庫の中にいると、何もしてないのに唇の粘膜が荒れた。
検品をしている人は、たいていマスクをしている。私も翌日はマスクをして作業をした。
これはそのとき聞いた噂で、たぶん都市伝説だと思うが、米国産の柑橘類は放っておいても
腐らないのだそうだ。
普通はカビで真っ青になるものが出てくるのだが、そういうものは一個もなく、ただ溶けて
なくなるらしい。
そのバイトは一週間で終わったが、その後、私はできるだけ外国産の柑橘類の皮を口に
入れないようにしている。
今も、あの巨大な倉庫で燻蒸しているかどうかは分からない。