救急車

私は救急車に乗ったことが2回ある。
最初は3歳のとき、塀から落ちて左腕を骨折したときだが、このときのことは全く憶えていない。
2度目は、自分が怪我や病気になったのではなく、後輩の付き添いで乗った。
これは今でもよく憶えている。当たり前か。


大学生のとき、帰省して友だちと酒を飲んでいた。
私は関東の大学で、Og くんとTは関西の大学だったので、なかなか会う機会がなかったのだ。
(ちなみに Og くんは同学年、Tはひとつ下の後輩だった)


さんざん居酒屋で飲んで、夜中に Og くんの家になだれ込んで泊めてもらうことになった。
松山はクルマや自転車で移動するので、終電という概念は基本的にない。
私は自転車を押して、二人は徒歩で繁華街から Og くんの家まで歩いていった。


30分ぐらいで到着したろうか、そのころには少し酔いが醒めていた。
すると、Og くん家にあったのかTが持ってきたのか、ウォッカが1瓶出て来た。
私は一口舐めると、フラフラになってしまったのであまり記憶にないのだが、Og くんとTは
コンビーフを肴にクイクイやっていたようだ。


明け方である。
私は寝ていたのだが、ふすまをカリカリと引っかくような音がしたらしい(Og くん談)
しばらくすると、Og くんがTをゆすっている。大丈夫か、と言っている声で目が覚めた。


見ると、雑魚寝していた部屋の畳からトイレまで、ゲロが転々と落ちている。
その先には、Tがトイレで倒れていた。
えらいこっちゃ。


Og くんの両親も心配して起きてきた。午前6時前だったと思う。
とにかく、意識が回復しないので危険だと判断し、救急車を呼んだ。
急性アルコール中毒だった。


まもなく救急車が到着し、Tは担架に乗せられた。
心配でついていった私と Og くんに、救急隊員が「一緒に行きますか?」と言った。
我々は「はいっ!」と即答し、いそいそと救急車に乗り込んだのだった。
このとき、Tを心配するよりも、救急車に乗れることが嬉しかったことを告白しておく。
すまん、T。


健康な人間が救急車に乗ると、非常に面白い。
いや、面白いというのは不謹慎かもしれないが、みるみる他のクルマがよけてくれるのだ。
モーゼになった気分である。
早朝で、それほど交通量が多くなかったから、思っていたほどではなかったが、
それでも乗っていてちょっと興奮してしまった。


結局、Tは一日入院して、ブドウ糖の点滴を受けて復活した。
あいつは、そもそも酒が強いのか弱いのか、今となっては謎のままである。


そういえば、救急車に乗って近所の病院まで行ったのだが、どうやって Og くんの家まで
戻ったのか、まったく思い出せない。
歩いて帰ったんだっけ。


本文と写真はまったく関係ありません

孤岸山 大蓮寺