犬を拾った話3

誰も読んでないと思うが、犬の話の最終回である。


Sの嫁さんも、二匹同時に世話するのが大変だということで、私の家と、Sの家で一匹
づつ飼うことにした。これなら、お互いに何とかなりそうだ。


写真もできたし、動物病院にビラも貼ってもらった。
後は連絡が来るのを待つだけだ。
私も、だんだん仔犬の扱いに慣れてきた。情が移ってきたのかもしれない。


一週間たったが、里親は現れない。
私のアパートは、当然だがペット禁止である。
すでに猫を飼っていたが、さらに犬までいることがバレたら追い出されるかもしれない。
獣医さんが言うには、中型犬ぐらいになるそうだから、室内では無理だ。
ヤバい。やはり保健所か。


98年当時は、まだインターネットでどうにかしようという発想がなかった。
私は、まだニフティパソコン通信でメールをやりとりしていたのだ。
マシンはエプソンの286である。OSはMS-DOSだ。どうしようもない。


5月23日に、S夫婦がクルマで私の預かっている仔犬を引き取りにきた。
彼らは当時、横浜の方に住んでいたのだが、神奈川県動物愛護協会主催の里親バザーと
いうのがあるという情報を聞いたそうだ。


これはけっこう期待できるかもしれん。
私は、ようやく目が開いてきた仔犬を渡した。
これが今生の別れになった。


夕方になってSから電話があった。
二匹とも大人気で、あっという間に里親が現れたのだそうだ。
よかったねぇ、と二人で喜んだ。
私のところには、哺乳瓶と粉ミルクが残された。
結局、この二つは、東京を去るときまで処分できなかった。


7月の終わりごろだったか、Sが写真を見せてくれた。
里親が写してくれたものだそうだ。
立派な犬になっていた。
あんなに小さかったのに、もう、しっかり立っている。
犬は成長するのが早いものだなぁ。


そして06年の現在である。
あの仔犬たちも、生きていれば8歳の初老の犬になっているはずだ。
もはや私のことなど忘れてしまっているだろうが、神奈川県のどこかで元気に暮らして
いることを願っている。


ちなみに、私の飼っていた猫は、子犬を拾ってきた年の10月末に死んだ。
2歳半の若さだった。
そのとき以来ずっと、私は号泣していない。