犬を拾った話

98年5月4日、同郷の友人SとRが、三鷹に住んでいる私のアパートに来た。
Sはマスコミ系の会社に勤めており、97年に結婚している。
Rはメーカーに勤めており、結婚はしてない。
私は業界新聞社を辞めて、失業保険で暮らしていた。


Rがクルマで来たので、私たちは奥多摩へドライブに行った。
なぜ奥多摩だったのかは、今となっては忘れてしまった。


Rのフェスティバに乗って、バカ話をしながらドライブするのは久しぶりだった。
男三人、ナンパをするでもなく、旨いものを食いに行くでもなく、ただぼんやりと
奥多摩へ向かう。目的地はどこでもよかったのだ。
出発したのが夕方だったので、奥多摩に着いたのは6時ごろだった。


どっかにクルマを停めようか、と相談しているとき、私はトイレに行きたくなった。
あたりに施設はないので、適当なところで路肩に停めてもらい、林の中に入った。
立小便をしていると、どこからかクゥ〜ン、クゥ〜ンと鳴き声がする。
日も暮れかけており、不気味だったが、小便は止まらず最後まで出した。


そのままクルマに戻ろうかと思ったが、何となく気になって、声がどこから聞こえて
くるのか探した。
落ち葉が一面に散らばっている地面からだった。
葉っぱをどけてみると、仔犬が二匹、地面に埋まっていた。かろうじて顔が出ている。
私はあわてて掘り起こした。


「‥‥あのさぁ、犬がいたんだけど」
小便をしにいった奴が、なぜか仔犬を二匹持って戻ってきた。
SもRも、キツネにつままれたような顔をした。
「どういうこと?」


仔犬たちの身体は冷え切っていた。
私たちは、クルマに積んであったタオルを巻いてやり、保温した。
もはやドライブどころではなかった。
とにかく、三鷹に戻ろう。
すっかり日が暮れた夜道を、私たちはひたすら戻っていった。
Sは嫁さんに、ちょっと遅くなるから、と携帯で連絡を入れていた。


(つづく)