桂亭

西荻窪に「桂亭」というラーメン屋がある。
初めて行ったのは1990年ぐらいだった。
当時は、まだ東京のラーメンも爆発的な進化をみせておらず、ラーメンといえば荻窪
という時代だった。


「桂亭」は、その時点ではかなり旨いラーメンを出していた。
今も味は変わらないのだが、他の水準が上がってしまったので、中の下ぐらいのところに
落ち着いてしまったようだ。


それでも、私は「桂亭」の平打ち麺が好きなので、上京したついでに食べに行った。
つけ麺を注文して食べてみると、やはり10年前と同じ味だった。
たいてい、つけ麺を注文すると、最後につけダレをスープで割ってくれるのだが、
ここは昔からそういうサービスがない。それも変わっていなかった。


食べ終わって勘定を払おうとしたとき、店のオヤジさんが
「久しぶりだねー」
と話しかけてくれた。ついぞなかったことである。
ていうか、顔を覚えてもらっていたことに驚いた。


実は田舎に引っ込んでしまいまして、たまたま友だちの結婚式で東京に来てるんですよ、
と言うと、オヤジさんは目を丸くしていた。


ずっと西荻に住んでいれば、オヤジさんと世間話ぐらいできる常連さんになれていた
かもしれない。
あるいは、吉祥寺の「麺屋武蔵 虎洞」のつけ麺にハマッたまま、「桂亭」のことを
すっかり忘れていたかもしれない。


そんな架空の未来はどこにも存在しないけれど。