真実の10メートル手前

東野圭吾の「探偵ガリレオ」を読んだとき、これってテレビドラマ向けに
書いたのか、と思った。数年して福山雅治主演のドラマになって大ヒット
したので、自分の目に狂いはなかったと自画自賛した。


ミステリ小説作家にとって、人口に膾炙する探偵や刑事を生み出すことは
喜びだろうと想像する。
古くは明智小五郎金田一耕助、昭和だと十津川警部浅見光彦なんかは
何度も映画化やドラマ化されていて、作家冥利につきるのではなかろうか。


東野圭吾が生んだ湯川学や加賀恭一郎も多くの人に知られたミステリ小説の
主人公である。
そこが通俗的と思われたせいかどうかは知らないが、長い間直木賞がとれなかった。
個人的には「白夜行」で受賞すべきだと思ったのだが。



なぜ延々と東野圭吾のことを書いたかというと、米澤穂信太刀洗万智という
キャラクターを生み出しているが、映像化する色気はないような気がするから
である。


別に映像化を狙った作品を書くのが悪いわけではなく、ミステリ作家が売れる
ためにがんばるのはいいことだとも思う。専業作家で生活できる人はほんの
一握りだろうから。


私がプロデューサーだったら、太刀洗万智にシシド・カフカをキャスティング
して映画なりドラマを作るだろう。


だが、原作どおりの物語にすると、どうも大衆受けが悪いような気がする。
題材が渋いというか、苦々しい読後感があるというか。でも、その感じが
太刀洗万智シリーズの魅力でもあるわけで。



ただ、この渋さで直木賞をとる可能性も否定できない。
本作と「満願」で候補になっているが、まだ受賞できていないのが悔しい。
東野圭吾のように6度目のノミネートまで待たされることがないようにして
ほしいものだ。


米澤穂信といい万城目学といい、私の好きな作家はなぜか直木賞と縁が薄い。
別に直木賞をとったからいいというわけでもないのだが、世間の評価というのは
そういうものだから、たくさんの人に作品を読んでもらうためにも、早めに受賞
させるべきでは、と思う。


もともとアンチ直木賞のために作られた本屋大賞も、最近はなんだか直木賞
寄っていっている感じがあるし、ファンとしてはイライラするのである。



いろいろと下らないことを書いてしまったが、本作はぐいぐい読ませるので
おすすめです。
文庫版の解説が素晴らしいので、評価はそこで読んでください。