海の史劇

海の史劇 (新潮文庫)

海の史劇 (新潮文庫)

週末からドラマ「坂の上の雲」の第二部がスタートする。
その前に読もうと思っていた本で、いわば「裏 坂の上の雲」だろうか。
いや、裏というのは吉村昭に失礼なのだが。


この小説は、主にロシア側から見た日本海海戦を詳述している。
ロジェストヴェンスキー提督が、ロシアから日本海まで大艦隊を率いて
たどり着く様が描かれており、司馬遼太郎のように余談がないぶん、淡々
と記述されている。


ロシア艦隊は、いわばフルマラソンを走った直後にボクシングをしたよ
うなものであり、こんな無茶な戦闘はもう二度とないだろう。


あとがきによると、昭和45年11月から「海と人間」という題で地方紙各紙
で連載が始まり、昭和46年10月に終了した、とある。


一方、「坂の上の雲」は昭和43年から47年の間に産経新聞に連載されている。


ということは、日露戦争についての小説が同時に連載されていた時期があ
るということだ。
吉村昭の方が後から書きはじめたのは、何らかの理由があるだろうけれど、
お互いに意識していたことは間違いないと思う。


そして、どちらも日露戦争に対する歴史的認識はほとんど変わらないよう
に読めた。
ただ、「海の史劇」には秋山兄弟はほとんど出てこない。


また、日露戦争の講和会議についても書かれており、より詳しくはこの

ポーツマスの旗 (新潮文庫)

ポーツマスの旗 (新潮文庫)

で書いてある。
わたしたちのメンタリティは、日比谷焼き打ち事件のときからあまり変
わっていないのかもしれない。
私はこの小説で、ポーツマス条約の内容に怒り狂った暴徒が小村寿太郎
の自宅を襲撃し、そのせいで小村の妻が精神を病んだことを知った。


以下は余談。


日本海海戦というと、いわゆるT字戦法が語られる。
敵の前でターンして、向かってくる戦艦を通せんぼする作戦だ。


この作戦の欠点は、ターンしている間は無防備になってしまうことである。
事実、日本の艦隊はターン中にわりと被弾している。


ただ、ロシア側は訓練不足もあって、それほど命中率は高くない。
波が高く照準を合わせにくかったことも影響が大きかっただろう。


だが、この日本海海戦は伝説的な勝利をおさめた。
この勝利の記憶は、日本人の中に深く刻まれただろう。


ここで話は突然、変形ロボットアニメに変わる。
子供のころには違和感を持たなかったけれど、ロボットが変形していると
きは、最も無防備な状態である。
なぜ敵は攻撃しないのだろうか? 


私は、ロボットが変形しているときに攻撃を受けてピンチになった、と
いう場面を見た記憶がない。
バンクフィルムを使っていたから、という理由もあるだろうが、みんな
無意識のうちに、変形中は敵は攻撃しない、と思っていたはずだ。


おそらく、日本海海戦の記憶が、変形ロボットアニメにも残っているので
はないか、と推理する。
敵の目前で変形して最強の形になる、という勝利の記憶は、戦後のアニメ
にも脈々と受け継がれてきたのではあるまいか。


日本以外に、そのような作品をつくった国はないことも、私の妄想を補強
してくれる。
誰か検証してください。