阿片の中国史

阿片の中国史 (新潮新書)

阿片の中国史 (新潮新書)

中学生に歴史を教えているとき、必ず阿片戦争について触れなければ
ならない。教科書では、イギリスと清が戦って敗北する、という記述
があって、なぜ負けたかといえば、イギリスには近代兵器があり、清
にはなかったから、という説明がなされる。


しかし、実際はそうではなかったらしい。
この本によると、清が負けたのは官僚の無能のせいであった。
実際、林則徐が罷免されるまでは、イギリス海軍は苦戦していたので
ある。


道光帝が陪臣にそそのかされなければ、あるいは中国の近代史は変わ
っていたかもしれない。
人事というのは、一国の命運を左右することもあるのだ。


中国にあれほど阿片が蔓延したのに、どうして同じ時期の日本には阿
片が持ち込まれなかったか、という疑問には、次のように答えている。


ひとつには、日本人が勤勉で貧乏だったので、阿片を吸うような余裕
がなかったから、というもの。
もうひとつは、日米修好通商条約のなかで、米国が進んで阿片の禁輸
を条項に入れたことである。


これは何も米国がいい国だったからではなく、イギリスを牽制するた
めに、とにかく日本を自国の補給基地にしたかったからのようだ。
加えて、イギリスはアロー号事件露土戦争で海軍を動かせなかった。
このような幸運が重なって、日本は阿片の害毒を免れたということだ。


それから140年ぐらい経った今だと、逆に阿片は日本で大流行すると
思う。若者はまじめさを失い享楽的に生きるようになった。
そうなると、日本のお金を狙って、世界中の麻薬業者が売り込んでく
るに違いない。現にいま麻薬は大量に広まっているはずだ。


阿片というと、私は「once upon a time in America」という映画を
思い出す。怪しげな阿片窟で、ロバート・デニーロが阿片を吸いなが
ら昔のことを思い出すシーンから始まる。


そういえば、米国も麻薬漬けになっているが、どこからも侵略されて
はいない。中国はつくづく運が悪かったとしか言いようがない。