崖の上のポニョ

前作の「ハウルの動く城」よりは面白かった。
目線をうんと下げて子供向けにしているけれど、大人が見ても十分楽しめる
作品で、カテゴリーとしては「となりのトトロ」と同じなのではないかと。


映画館の中は子供たちが多く、一番もりあがっていたのは、ポニョが大きな
波の上をピョンピョン跳ねながらクルマを追いかけている場面だった。
このときの波の描写が素晴らしくて、そういえば宮崎駿はここまで液体にこ
だわって描いたことがあったっけ? と思うほどだった。


気になったのは、車椅子の老婆たちである。
前作の「ハウル」にもそういうキャラクターがいたが、彼女たちはどういう
存在だったのだろうか。
車椅子のお爺さん、というのは登場したことがないと思うが、なぜ女たちの
老後を執拗に描くのか、よく分からなかった。


物語としては、最も盛り上がるのが大津波のところで、終盤は実にゆるやか
なトーンになっている。
本来は、宗介がポニョを母親のところまで連れて行くところで、もう一山あ
ってもよさそうなものなのに、フジモトに追われた宗介がトキの胸へジャン
プする場面がクライマックスになっている。


5歳の少年の冒険だから、確かに命に関わるような危険なことをしてもリアリ
ティがないだろうけど、テイストが往年の“まんが映画”なのだから、ぐっ
と盛り上がるような何かが欲しかったところだ。


ただ、こういうユルさは、いい意味で物語的な展開を外そうとしたせいかも
しれず、宮崎駿が晩年になって至ったひとつの境地なのかもしれない。
私は、たくさんの悲劇や喜劇を作ったシェークスピアが、晩年に「あらし」を
書いたようなものかな、と解釈している。


なので、フジモトという人がなぜ海の底で怪しげな研究をしていたのか、と
か、ポニョの弟妹たちが無数にいたが、なぜポニョは一人だけなのか、とい
うような謎は、お話の中では全く触れられていない。


そういうのをいちいち説明するのは、もうどうでもよくなったのだろう。
細かいことは自分で想像してください、ということだと思う。


大人があれこれ解釈するよりも、ただスクリーンを見て「すげーなー」と
思うのが、この映画の楽しみ方でしょうね。



蛇足になるが、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」では、宮崎駿と母親
との関係を分かりやすい解釈で描いていた。
しかし、一流のクリエイターの葛藤なんて、そんなにスッキリ割り切れるも
のではなかろう。
何百日取材したところで、ちっとも監督の本質には触れられていなかった。
スタッフは猛省すべきである。