数学でつまずくのはなぜか

数学でつまずくのはなぜか (講談社現代新書)

数学でつまずくのはなぜか (講談社現代新書)

塾で子供に教えていると、ときどき(なんでこんなことが分からないの?)と思うことが
ある。
生徒には決して言わないが、何度やってもできないときは、この子は大丈夫だろうか、と
心配になる。


それでも、何とか彼らに対するアプローチを考える。
身近なテレビ番組の例を出してみたり、図に描いてみたり、おそらく塾講師の大半は同じ
ようなことをしたことがあるのではないか。


この本は東大の数学科を出て経済学博士になった人が、塾講師時代にどうやって数学を教
えていたかを書いたものである。


高等数学を理解できる人が、子供の目線に降りて教えていることがすばらしい。
正の数負の数の考え方、文字の式の仕組みなどは非常に分かりやすかったので、子供を教
える人はぜひ参考にしてもらいたい。


ただ、後半の微分あたりから私には難しくなってきて、自然数を集合で説明するところに
なるとさっぱり理解できなかった。
これは私の頭が悪いせいであって、著者のせいではない。


私が感動したのは、あとがきである。
塾講師のときに教えた子たちの思い出がいくつか書かれているが、後に数学者になった子
のエピソードが面白かった。


中学生の教科で段違いの才能が現れるのは、たぶん数学だけだ。
英語が突出してできる生徒がシェークスピアを原書で読んでいたとしても、教える方が全
く理解できないということはない。
ラカンを原書ですらすら読む中学生がいたとしたら、たぶんついていけないけど)


数学は普通の塾講師だとせいぜい高校の数学か、大学の初歩の数学ぐらいまでだろう。
稀に高等数学ができる人もいるが、そういう人はふつう塾の先生にはならない。
そうすると、数学の才能がある子が理解されない可能性がある。
田舎だとそういう例があるのではなかろうか。


つまり、この本の著者に教えてもらった生徒は、かなりラッキーだということだ。
そういう先生に出会わなかった子は、ぜひこの本を読んでほしいと思う。