ハンバーガーの教訓

私はビジネス書というものを読まない。
たいていは成功した人の自慢話にすぎないからだ。
この本もその例に漏れず、好きなことを言い放っている。
矛盾だらけだが、突っ込む気にもならない。


では、どうして読もうと思ったかというと、「名ばかり管理職」裁判があったからだ。
ちょうど先日のNHKスペシャルでも採りあげられていたが、マクドナルドの店長が訴訟を
起こし、一審で勝訴していた。


マクドナルド側は、店長は平均年収が700万円程度あり、決して低賃金で長時間労働させ
ているわけではない、と主張しているし、そのような広告も打っている。
残業代を払ったらいくらでも働かせていいのか、という問題もあると思うが、NHKスペシャル
の中で、訴訟を起こした元店長が語っていた内容では、決して管理職と言えるような仕事内
容ではなかったらしい。


その事実を知りつつ、この本を読むといろいろと面白いことが書いてある。
例えば42ページには

 マクドナルドでは経営的な視点から愛社精神を持つようにと促すことはまったくないが、
実際には強い愛社精神を持っている社員がほとんどになっている。現在でも社員の半数ほ
どはアルバイト経験者になっていて、新卒ではさらにその割合が高くなっている。そのこ
とでもわかるように、クルーとして実際に現場で働いているなかで、この仕事の価値を見
出し入社を決意している人間が多いのだから、会社に対する愛情が強いのも頷ける。

とある。
訴訟を起こした社員は、アルバイト未経験者だったのかもしれない。
あるいは、人権派弁護士にそそのかされたのか。


また、68ページには

 私は現在でも、時間が少しでもできれば店舗を回って、社員やクルーと話をするように
している。マクドナルドに入ったばかりの頃からそれは変わらず、同じような話を続けて
きたので、いまではスタッフ全員の耳にタコができているのではないかとさえ考えられる。
 そのため現在では、会社の戦略がわかっていない社員などは一人もいないはずである。
価格設定ひとつをとっても、どうしてそうしたかの理由を全国約3800店舗のマネージャー
それぞれが自信を持って回答できるようになっているのだ。

とある。
会社のトップが現場を回ると、確かに上からの意思は伝わるだろうが、普通はビビッてし
まい、言いたいことも言えなくなるのではなかろうか。
「会長、残業が多すぎます」と直言できる店長がいたとは思えない。


140ページには恐ろしいことが書いてある。

 マクドナルドに関していえば、やる気のない社員は本当に少ないといえるはずだ。手前
味噌を並べる話になるが、何かを実効しようとしたときに強烈なエネルギーを見せてくれ
るケースが本当に多い。
 程度の差はあれ、それが社員全般に共通しているのだから、会社としての文化、資産に
なっているともいえるのかもしれない。


 マクドナルドでは毎年一回、全国の店長を集めての「キックオフ・ミーティング」を開
催している。これについて私は最初に「店長みんなをびっくりさせるようなことをしてみ
ろ」というふうに話しておいた。
 どうしてそう言ったかといえば、マクドナルドは常に新しい何かをやっていくのだとい
う理念を全国のスタッフの体に染みつかせたいと考えたからである。


 そして、スタッフが企画を進めているなかで「いきなりホンモノの象が出てくるぐらい
のことをやれよ!」と発破をかけておくと、その本番で、実際にホンモノの象が出てきて
驚かされたこともある。私の言葉をそのまま実行したという点では残念な部分も多少はあ
ったが、まさか本当にそうすると思ってはいなかったので、かなり意表をつかれたのだ。

本人は自慢げに書いているが、私は現場のスタッフに同情を禁じえない。
会長が無茶なことを言ったら、現場がその通りに動くということに、何の疑問も抱かない
のだろうか。


もともと日本のマクドナルドは、藤田田という怪人物が育て上げた企業である。
海外のマクドナルドの経営状態は知らないのだが、日本は独自の進化を遂げた。
独裁者に統治される企業風土が根づいているのだ。


私は藤田田原田泳幸の間にいたトップの名前を知らない。
恐らく誰も記憶していないのではないだろうか。
そういうプレーンな人物では、マクドナルドを統治することができないのだ。


ちょうどロシアや中国のような巨大な国家を治めるのと同じように、巨大な企業のトップ
はエキセントリックな人間でないと無理なのだろう。


マックは安くておいしくて便利だし、何度も利用しているから嫌いではない。
それに、どんな人が経営のトップにいようが、いち消費者にとっては関係がない。
ただ、食べ物屋というのは、あまり巨大になりすぎても意味がないのではないのかなぁ、
とも思う。
フードファディズムではないけれども。