ボーダー

人に薦められて読んでみた。
これはバブル期に連載されたマンガで、主人公たちは資本主義を憎み、自らを「境界線上
の人間」=ボーダーと称し、ボロアパートで自堕落な生活をしている。


この物語は、豊かになっていくときの日本の、いわば脱皮した皮だと思う。
なので、現在このマンガを読んでもあまり意味はないけれど、連載当時はスリリングなもの
だったであろう。


原作者の狩撫麻礼の癖なのか、よく「あちら側」という言葉が出てくる。
見せかけの豊かさに踊らされ、本質を見失った大衆たち、という意味で使っていると思うが、
非常に主観的である。


主役の蜂須賀という男の行動をみてみると、そういう大衆を激しく憎みながらも、最終的に
は結婚や就職をして普通の人間になりたいと願っている。
つまり、大衆を憎むのは若さゆえの過ちであり、歳をとってくると平凡の大切さが分かって
くるのだ。


ただ、あまりにもモラトリアムが長すぎると、自らが憎んでいた大衆の中に入れてもらえな
い。これは、サラリーマンをバカにしていたフリーターやニートが、いざ正社員になろうと
しても絶望せざるを得ない、現在の状況と同じである。


なので、この作品のひねくれ具合を気に入る人は何人かいるだろうけれど、多くの読者を獲
得することはできまい。原作者もそれを望んではいないだろうし。
80年代末期の時代を刻印した貴重な作品だと思う。


ひとつ気になったのは、主役の3人のうちの久保田の役回りである。
彼は最初のときこそ蜂須賀と同じぐらいのウェイトで登場してきたが、次第にキャラクター
が薄くなっていき、最後にはほとんど活躍しなくなってしまった。


チラッと過去が語られたものの、なぜ海外を放浪したのか、なぜ普通の暮らしをしないのか、
まったく謎のまま終わってしまった。
トリオ漫才でいうと、ボケの蜂須賀、ツッコミの木村をサポートする役どころだろうが、途
中から木村もボケになっていくので、唯一ツッコミ役として残らざるを得なかったのかもし
れない。