斉藤さん

「斉藤さん」じゃなくて「ミムラさん」だったような気がするが、私はミムラのファン
なので、むしろ嬉しかった。


このドラマのターゲット層は30歳前後の主婦かと思われるが、それ以外の人は興味があ
るのだろうか。ずいぶん入り口が狭い話のような気がするが。
それでもドラマ化したということは、何らかの勝算があるのだろう。


こういった主婦の人間関係の話を見ていると、女でなくて本当によかったと思う。
正しいと思ったことをズバズバ言える「斉藤さん」というキャラクターは、多くの主婦
にとってヒーロー(ヒロイン?)ではあるまいか。


ドラマでは、観月ありさと対立する役で、高島礼子が登場する。
彼女もまた、多くの主婦の気持ちを代弁するキャラクターなので、この二人の間で右往
左往するミムラの演技が見ものである。


なぜ、幼稚園児の母親の集まりがスッキリしないかというと、ビジネスではないからだ。
ビジネスの場では、学歴や性格が違う人間が集まっても、金儲けという一点で結びつい
ているから、やや理不尽なことでも割り切れる部分がある。


ところが、主婦の場合は、ビジネスと同様に学歴や性格、家庭環境が違う女性が、子育
てというつながりだけで関係を保っている。
子育ては、金儲けとは違って非効率的なものだから、はっきりした分かりやすさがない。


私が mixi に懐疑的なのは、このようなゆるいつながりが息苦しく感じないのだろうか、
という点だ。
実際、mixi をやっていると疲れる、という人の声をちらほら耳にする。


このドラマにおける観月ありさは、mixi に招待されない人のようなもので、孤独だけ
れど鬱陶しい人間関係からも自由である。


ただ、「斉藤さん」の正義の根拠はどこにあるのだろう、という疑問もある。
第一話でいうと、ゴミを出す曜日やペットボトルのポイ捨て、傍若無人な子供を放置し
ている主婦などに怒っている。タバコが子供の顔に当たった、というものもあった。


これらは確かに全て「斉藤さん」が正しい。
このようなことを叱責するぶんには、何の問題もないだろう。


しかし、それは「斉藤さん」の常識と、世間の常識が合致している場合だけである。
かつて多くの人の間で共有されていた常識がゆらいでいるからこそ、「斉藤さん」のキャ
ラクターが生きてくるのだ。


だから、「斉藤さん」は身の回りのことでしか怒らない。
政治や経済の不正については、問題が大きすぎて個人では扱えないからだ。
私はそれでいいと思うけれど、主婦は案外と狭い世界で生きているものだなぁ、と少し
可哀想にもなった。