天国と地獄

結論からいうと、映画の劣化コピーだったかな、と。
やはり黒澤明は偉大だったということが証明された形だ。このドラマを見ていると、どうしても
映画の方を見返したくなってしまう。


ただ、阿部寛佐藤浩市はよかった。舞台を小樽にしたのもいいと思う。
でもねぇ、肝心の犯人役が妻夫木聡じゃいかんですよ。
彼はどうしてもいい人に見えてしまい、山崎努が演じた狂気が表現できないのだ。
テレ朝も、劇団ひとりをキャスティングするぐらいの冒険をしてほしかった。


それと、吹石一恵はどう見ても麻薬中毒には見えんでしょう。
小池栄子とか MEGUMI みたいな元グラビアアイドルの方が犯罪者っぽいと思うのは私の偏見かも
しれないが、篠井英介と夫婦なのはバランスが悪かった。


それから捜査本部ね。
現代風の警察を表現すると、ああいうクールな感じになるのもやむを得ないけれど、昔の映画に
よくある、うだるような熱気がうずまく雰囲気じゃないと、犯人を追い詰める勢いが伝わってこ
ない。エアコンは刑事ドラマの敵です。


よかった点をいうと、刑事たちが佐藤浩市の態度を見て感動し、心をひとつにして捜査するとこ
ろかな。これは映画でもそうだけど、本気になった男たちが全力で犯人を追うところにドラマの
肝があると思う。


ちょっと疑問に思ったのは、終盤で主犯をほぼ特定したときに、このまま逮捕しても罪が軽くな
るから、もう少し泳がせて極刑までもっていこう、と阿部寛が語る部分だ。
これって司法への介入じゃないの、と思ったのは私だけではあるまい。
映画ではどうだったか忘れてしまったが、引っかかる部分でした。


黒澤明は、序盤に大邸宅の居間で三船敏郎や刑事たちが会話をする場面で、俳優の立ち位置から
キャメラの移動まで、実に細かく計算して撮影したというエピソードを読んだことがある。
そのため俳優は、センチ単位での移動をしながら演技することを要求されたそうだ。
映画を見ると、実に無駄なく、緊迫した状況をフィルムにおさめている。


テレビ版は、安易に画面を分割していた。状況を説明するために、そうせざるをえなかったのだ
ろうが、やはりテレ朝クオリティだな、と思った。


明日は「生きる」のリメイクが放送されるし、織田裕二主演の「椿三十郎」も制作されている。
缶コーヒーのCMにも黒澤明が登場するなど、どういうわけか黒澤ブーム(?)が仕掛けられている
けれど、どういう思惑があるのだろう。


ここはきっちり、本物の映画を劇場で上映する方が先なんじゃないかと思うのだが。
私も15年近く前に映画館で「七人の侍」のリバイバル上映を見て、すっかりやられてしまった
クチなので、いまの若い人とも是非この感動を分かち合いたいです。


本文と写真はまったく関係ありません

日活映画な熊井ちゃん