船徳

吉祥寺図書館には、なぜか古典落語のCDやカセットテープが充実していて、私はそれを片っ端から
借りてせっせとダビングしたものだった。
今日は暑かったので、八代目桂文楽の「船徳」を聴いてみた。


知らない人のために説明すると、遊びがすぎて勘当された若旦那の徳兵衛が、居候していた船宿で
船頭になる。
しかし、もともと遊び人なので非力である。たまたま乗り込んだ客の二人が、よれよれになる船頭
とともに隅田川を上る様を面白く描写した話である。
(タイトルの「船徳」というのは、船頭の徳兵衛の略)


「竿は三年、櫓は三月と申します」
「四万六千日、お暑い盛りでございます」
クラシック音楽でいうところのトスカニーニのような、桂文楽の端正な口跡を聴くと、落語の素晴
らしさをしみじみ思う。


そもそも、勘当された若旦那というのは、いまでいうニートである。
で、ニートが肉体労働をするのだが、端から仕事をナメている。こういう人は昔からいたんだなぁ、
と感心する。働くだけ偉いのだけど。


そして、仕事をしながらブツブツ文句は言うし、なによりまともに船を漕げない。
通りがかった竹ざお屋に
「徳さん一人かい? 大丈夫かーい?」
と心配される始末である。これを聞いた客のひとりがうろたえるのが笑いどころだ。


なんとか目的地までたどり着いて客を降ろしたら、逆に客の方が心配になり、徳兵衛に声をかける。
すっかり息の上がった徳兵衛が
「すいませんが、お上がりになったら船頭をひとり雇ってください」
で下げになる。


いまだと、こういう従業員がいたら、すぐにクレームがつくだろう。
福引で当たったこうもり傘、という言葉があることから、明治時代初期の噺だと思うが、徳兵衛に
怒りもしない客の懐の深さに、まだ江戸情緒が残っていたのだと思う。


それにしても、この若旦那はちゃんと船頭になれるとも思えないし、いずれ勘当がとけて実家に戻
れると読んでいたのだろうか。
あるいは、いずれ身を持ち崩して早死にしてしまったのかもしれない。


若旦那の周りにいる人々は、案外ドライにそういうことを計算して、船頭のまねごとをさせていた
のかもしれないなぁ、と思うと、ちょっと切なくなる。
考えすぎかな。


真夏に聴く落語の定番なので、この季節に是非。30分もないですから。


本文と写真はまったく関係ありません

川*^∇^)||<徳さん、今日カラオケでもどうだい? 
从´∇`从<あー、うれしいけどやめとくよ熊さん