- 作者: 広瀬正
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1982/05
- メディア: 文庫
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広瀬正の小説を読むのは「マイナス・ゼロ」以来、2冊目だ。
Wikipedia によると、広瀬正は「マイナス・ゼロ」で第64回、「ツィス」で第65回、「エロス」で
第66回の直木賞の候補になり、落選している。
彼はその翌年に、47歳という若さで病死しており、三回連続で直木賞を逃した精神的苦痛もあった
だろう。
選考委員はSFにだけは賞を与えようとしなかった、と筒井康隆が書いていたが、本当にそうだった
ようだ。
で、この「鏡の国のアリス」だが、それほどいい作品ではない。
鏡に映る世界に入り込んでしまったらどうなるか、という思考実験のようなもので、鏡像問題につ
いての解説を分かりやすく書いてあるが、それだけといえばそれだけの小説だった。
理屈が勝ちすぎていて、小説としての面白さが半減しているように思える。
鏡の世界では左右反対になるので、右利きの人は左利きになり、文字も反対になっている、という
設定だ。ただし、左右対称のものもあるので、それは鏡の世界でも通常と変わらない。
主人公は右利きだったので、鏡の世界に来たら左利きとなり、日常生活で不自由することになる。
左利きは子供のころに強制的に矯正させられたり、「ぎっちょ」と呼ばれて差別されることがある
のだが、この小説は左利きの人々からの異議申し立てという一面も感じられる。
ちなみに、181ページには広瀬正本人が間接的に登場し、彼が左利きだったことが書かれている。
私も通常は右利きだが、ドアノブを回したり、ジュースのプルトップを開けたり、自動改札に切符
を入れるときは左手でやるので、左利きの人の気持ちは少しだけ分かる。
いまの世界にしっくり来ない感覚のある人が読めば面白い小説なのかもしれない。
この文庫本には、他にも三つの短篇小説が収録されている。
その中の「フォボスとディモス」という短篇作品の方が面白かった。
女性は科学よりも身近なものを信じる、という視点がユニークで、ラストのひねりも効いている。
理系の男性ならではの、女に対する諦めというか軽蔑がにじみ出ていた。