ゆれる

ゆれる

ゆれる

週刊文春に連載している小林信彦のエッセーで、やたらと褒めていたので見に行った。
松山にもミニシアター系の映画館があって、シネマルナティックという。
月曜日は男性デーで1000円とお得だ。


初めて入ったが、とてもきれいな小屋で、なんと全座席にザブトンが置いてある。
こんな細やかな心配りをしている映画館は珍しい。
できれば繁盛してほしいものだが、お客は私を含めて5人。平日の夜8時からの回なので
しょうがないか。


余談になるが、むかし大街道に「銀映」という二番館があって、ロードショー公開が
終わった映画を三本立てで上映していた。
レンタルビデオが普及して潰れてしまったが、プログラムが渋かったように思う。
結局、TSUTAYA なんかは、映画好きなオッサンが「これ見とけ!」という作品を紹介でき
ないシステムになっているからつまんないんだろうな。


さて、映画「ゆれる」は、小林信彦が絶賛していたとおり素晴らしかった。
今年の邦画では、間違いなくベスト3に入ると思う。
これがミニシアターでしか上映されないのが不思議でしょうがない。


主演は香川照之オダギリジョーで、この二人が兄弟を演じている。
兄の香川照之は山梨の実家で父(伊武雅刀)の経営するガソリンスタンドを手伝っている。
35歳で独身。彼女なし。
弟のオダギリジョーは東京で写真家としてそこそこ成功しており、美人の彼女あり。


物語はオダギリジョーが母の一周忌で山梨の実家に戻るところから始まる。
香川照之が勤めるガソリンスタンドには、ふたりの幼馴染の女が勤めている。
どうやら兄はこの女に気があるらしい。女もまんざらではなさそうだ。


この幼馴染の女を演じる真木よう子がよかった。
田舎で鬱屈して、東京に出たがっている女をいやらしいほどリアルに演じている。
オダギリジョーとの濡れ場も最高だった。


そうなのだ。
兄が惚れている女を、弟は帰省したついでに奪ったのである。といっても、学生時代に関係
していたようなのだが、映画ではハッキリと語られてはいない。
なお、女の部屋にはオダギリジョーが出した写真集が数冊あり、それを見たオダギリジョー
(まいったな、こりゃ‥‥)という顔をする。


翌日、兄の誘いで弟と幼馴染の女は子供の頃に行ったという渓谷に行く。
兄の香川照之は不自然なほどハシャいでいるが、弟と女はそれほどでもない。
むしろ、女の方は弟とヨリを戻して、東京に連れて行ってほしいという口ぶりである。


それをはぐらかすために、弟は吊橋を渡って別のところへ行くが、女は後を追おうとする。
兄は高所恐怖症のため、吊橋を渡りたくないのだが、女を引きとめようとついて行く。
ここで事件が起きる。
なんと、女が吊橋から転落して川に落ちてしまうのだ。
弟はそれを下から見ていた。


女は下流で死体となって発見される。
最初は事故だということになっていたが、兄が自分がやったと自白する。
ここから裁判劇になるのだが、検察官を演じた木村祐一が存在感を出していた。
もし関西弁でなければ完璧だったと思う。


結局、兄に殺意はあったのかなかったのか。
この心理をめぐる兄弟の葛藤がドラマの見所である。
特に兄の香川照之は最高の演技を見せており、その硬軟とりまぜた台詞回しは見ている者を
ぞくっとさせる。


ここで「モテ/非モテ」のアングルから話を切ってみると面白い。
女っ気のない兄と、女に不自由しない弟がいる。
いったい、兄は弟のことをどう思っているだろう? 
弟に対するルサンチマンが、兄を凶行に駆り立てたと言えないだろうか‥‥とかね。


さっき Wikipedia で調べてびっくりしたのだが、香川照之って市川猿之助浜木綿子の息子
なんですね。しかも東大文学部卒ってなんだそりゃ。
サラブレッドというのはいるもんですな。演技力は本人の努力だろうけど。


もし、死んだ幼馴染の女が法廷に現れて証言したら、まさしく黒澤明の「羅生門」みたいに
なっていただろうけど、そういう映画でもないですね。


自分であらすじをまとめてみて思ったのだが、やはり小林信彦は映画の紹介がうまいなぁ。
私なんかは足元にも及ばないのは十分わかっているのだけれど。
もし、未見の方がいたら是非。


あと、これはイチャモンにすぎないのだが、松山のフリーペーパー bit も、こういう作品を
ちゃんとフォローしなきゃダメだろう。
田舎だから、それが書けるライターがいないんだろうけどさ。


本文と写真はまったく関係ありません