夜のピクニック

先週の土曜日公開で、平日のレイトショーという事情を差っぴいても、今日の観客が4人って
どういうことだろう? 
わりと良かったのに。


ネタバレしてますので隠します。




原作の小説を前もって読んでいたので、ふむふむとうなずきながら見ることができたのだが、
何の情報もなくこの映画を見た人は、いまひとつ食い足りない印象を持つかもしれない。
とはいえ、そういうことは原作のあるものを映画化したときの宿命だから仕方ないけど。


この映画の若手出演者で、もっとも有名なのは加藤ローサだと思う。
なんだか地味なキャスティングだなぁ、と思っていたのだが、映画が進むにつれて、その地味な
部分が地方の進学校っぽい雰囲気を出していることが分かった。


逆に加藤ローサをピンポイントでしか出演させてないところに、作品のトーンをちゃんと決めて
から撮影したんだなぁ、ということが伝わる。
いまテレビドラマにガンガン出ているような若手ばかりだと、雰囲気が出ないのだ。
また、甲田貴子の母親役に南果歩を選んだあたりは、キャスティングを分かってるなぁ、
と勝手にニヤニヤしてしまった。


もともと原作は青春小説である。
内容からして、主人公のモノローグを挿入しながら物語を進めていく手法もあったと思うの
だが、きちんと外部から俳優たちをとらえた正攻法だった。
それだけに、なぜかちょいちょい現れる監督の悪ノリに白けてしまうのが残念だった。
(例えば、ゴールキーパーにボールがぶつかる瞬間とか、バスの看護師たちがハードロッカーの
ようなメイクをしているところなど)


もう一点、冒頭のシーンはカメラがフラフラしすぎたと思う。
歩行祭という行事はどういうものか、甲田貴子たちは何年生なのか、といった基本的な情報が
伝わらなかった。
原作を読んでいなければ、映画に入りづらかったのではないか。


しかしながら、見ていて気になったのはそのくらいだ。
エキストラの管理を含め、撮影は大変だったと思うが、この作品はロケ地の勝利である。
夜のピクニック」の聖地はあそこだ、というようなモニュメンタルなシーンこそないけれど、
全編が素晴らしい景色の連続で(「下妻物語」もそうだけど)、茨城県フィルムコミッション
には仕事ができる人がいるに違いない。


Wikipedia で調べて初めて知ったのだが、この映画で描かれる、一昼夜かけて80kmを歩く行事の
元になったのは、原作者の恩田陸の母校である県立水戸第一高校の「歩く会」なんだそうだ。
どうりでロケ地が茨城県なわけだ。


前に原作の小説のことを、父親の欠落を補完する物語だ、と書いたことがあった。
で、映画を見ていると、原作には登場しない軽トラックに乗った八百屋のオヤジが3回登場する。
最初は歩行祭がスタートしたとき、軽トラから「がんばれよー」と声をかける。
二度目は晩ご飯のとき「栄養つくぞ」とバナナを配給する。
最後は、和解した主人公たちを見守りながら、黙ってバナナを食べる。
恐らく、彼が主人公たちの父親の分身なのだろう。


ゴール近くになって、「もっと青春しておけばよかった」と西脇融が言い、甲田貴子が
「してるじゃん、いま」と応える。
本当は、そんな風に自分を客観視できないところに「青春してる」部分があると思うが、
いまの世の中のフレームがそれを許さないのか、若者たちはついついマジになることを
避けようとする。
青春したって、そんなに恥ずかしがらなくてもいいんだよ、とオッサンは思いましたよ。


最後に、これはどうでもいいことだけど、主役の甲田貴子役の多部未華子(上)は

なっちの妹の安倍麻美(下)によく似てますな。