俳優になりたいあなたへ

俳優になりたいあなたへ (ちくまプリマー新書)

俳優になりたいあなたへ (ちくまプリマー新書)

読みやすくて、きちんとしたことが書いてあり、まさに「俳優になりたい人」に向けた
良書だと思う。
私は俳優になりたい人ではないのだが、テレビドラマや映画が好きで、俳優という職業
に興味があったので買ってみた。


鴻上尚史は、俳優とは「作者の言葉を、観客や視聴者に伝える」人である、と定義して
いる。
つまり、ある役を演じることと、俳優自身を語ることは違うらしい。
自分のことを語ってばかりいる役者は、いつも同じような演技にしか見えないから、
やがて観客に飽きられてしまうのだそうだ。


ただ、これもとらえ方の問題で、自分自身のキャラクターが当たり役になった場合、
その当たり役をとことん掘り下げていってもいいんじゃないかと思う。
そもそも、当たり役に出会えるということだけでもラッキーだと思わなければ。
ほとんどの役者は、ブレイクしないまま忘れ去られてしまうのだし。


それから、脚本・台本をどう読み込んで演じるか、ということも書いてあり、非常に
実践的だった。これは、鴻上尚史が英国の演劇学校に留学して学んだことだと思う。
いい台本には、主人公の具体的な目的や葛藤が必ず書いてある、というのも基本的な
ことだけど大事な指摘だ。
どうも、このごろのテレビドラマは‥‥いや、何でもないです。


ちょっと気になったこと。
これは劇団の作・演出家や映画の脚本・監督の立場から俳優を語ったものである。
なので、極端なことを言ってしまえば、俳優は作者・演出家の駒でしかない、と解釈する
こともできる。もちろん、そんなことは言ってないのだけれど。


私は鴻上尚史が、舞台の稽古中に演出家としてダメ出ししているところをテレビで見た
ことがあるのだが、非常に厳しいものだった。
ただ、演劇界では「仏の鴻上」と呼ばれているらしいので、もっと恐ろしい演出家が
たくさんいるのだろう。


鴻上尚史は、ドラマ「下北サンデーズ」を見て、どんな感想を持つのだろうか。
ちょっと聞いてみたい。
あのドラマを見て、小劇団に入りたいと思う若者はいないだろうけど。