TPぼん

T・Pぼん (1) (中公文庫―コミック版 (Cふ1-5))

T・Pぼん (1) (中公文庫―コミック版 (Cふ1-5))

中学生がひょんなことからタイムパトロールの隊員になり、不運にも命を落とした
過去の人々を救う活躍を描いたSF作品である。
高校で世界史を習っている人が読むと、ちょうどいいかもしれない。


この作品は、掲載していた雑誌がリニューアルしたために、途中で一時中断し、
ヒロインが交代している。
私は最初のヒロインの方が好きなのだが、それは突然の別れが描いてあるからかも
しれない。
手塚治虫の短編に「るんは風の中」という作品があるのだが、ラストのテイストが
似ている。


調べると、単行本に収録されてない作品が5話あるらしく、できれば読んでみたい
ものだ。(参照


いま読み返すと、意外にネーム(せりふ)が多い。
しかし、歴史の中の有名な事件をピタッと一話の作品に仕上げる構成力はさすがだと思う。


嶋中書店から発売された廉価版の単行本に、作者の言葉が掲載されている。

T・Pぼん」で書きたかったこと
                                藤子・F・不二雄

 僕は史劇映画が大好きです。いわゆる歴史劇ですが、必ずしも史上有名な人物や事件が
でてこなくても、その時代の空気や匂いが感じられれば満足なのです。逆にどんなに豪華
なセットや衣装でも、そこに生活感がないと気に入りません。BC何千年のエジプト人
カラフルな絹織物(らしき布地)なんか着ていると、それだけで白けてしまうのです。


 日常の行動やものの見方考え方など、現代の規範では理解できない部分が多かった筈。
そんな部分もひっくるめて、可能な限りか個の忠実な再現を見たい。つまり、タイムマシ
ンで本物の過去の世界を目の当たりに見たいというのが、僕の究極の夢なのです。


(中略)


 そんなこんな過ぎた時代への思い入れを漫画にしたくて「T・Pぼん」を書きました。
力不足で遠く意図に及びませんでしたが、実はまだ連載を終えてはいないのです。


 1995年5月

私も、ハリウッド制作の歴史映画の大半は、結局のところ米国人がコスプレをしている
だけ、という気がする。
つまり、当時の人々の感覚や考え方を全く考慮していないのではないか、と思うのだ。
(まあ、それはそれで面白かったりもするけど)


余談だが、1962年に制作されたエリザベス・テーラー主演の「クレオパトラ」は、莫大な
制作費のわりにヒットせず、20世紀フォックスを倒産の危機に直面させた。
なんでも、映画の中でエリザベス・テーラーが着ている黄金の甲冑は純金で作られており、
当時でも100万ドルかかったそうである。
そりゃ、経営も傾くわな。


残念ながら、作者は1996年9月に亡くなってしまった。
このような少年向けの歴史モノが、ほとんどなくなってしまったのは寂しい。
その一方で、青年誌では戦国時代や明治時代を描いた作品が発表されており、その志は
受け継がれているのかもしれない。


ただし、一次資料を読んで、そのまま絵にすればいいというものではなく、あくまで
マンガとしての面白さを追求しなければならないとは思うのだが、そういう作品は
へうげもの」を除いてないような気がする。