子供は判ってくれない

子どもは判ってくれない (文春文庫)

子どもは判ってくれない (文春文庫)

この時期、わりとタイムリーな本ではないかと思う。
つまり、北朝鮮からミサイルが発射された後、という意味で。


まず「正しい意見」というものへの疑いを「たいへんに長いまえがき」で述べて
いる。

「正しい意見であれば、必ずそれは聞き届けられる」というナイーブな考えに同意
できない理由は、『朝まで生テレビ!』や『たけしのTVタックル』を見ていれば
分かる。


 あれだけの論客がさまざまな意見を述べておられるのであるから、中の一人くらい
は「正しい意見」を述べている可能性があると私は思う。しかし、どなたが口を開い
ても、その言葉は必ず対立者によって遮られ、論駁され、排斥される。ある人が口を
開いたとたんに、全員がしんと沈黙して、自説を撤回してそれに聞き入ったという
光景を私はかつて一度としてテレビ画面で見たことがない。


 この事実についての可能な説明は二つしかない。それはこれまでの番組に登場した
すべての論客が「間違った意見」を述べていたか、「正しい意見」であることはそれが
「聞き届けられる」ことを保証しないか、そのどちらかである。


 私はあとの説明の方に説得力があると思う。


「正しい意見であれば必ず聞き届けられる」ということを私は信じない。しかし、
その逆にある意見が聞き届けられた場合、その意見には「いくばくかの正しさ」が
含まれているということについては、これを信じている。


卑近な例を挙げると、交通標語はまさにこれに当たる。
「飛び出すな くるまは急に とまれない」
などと大書してあっても、それが交通事故に対し具体的にどう抑制力が働いているか、
誰も検討しようとしない。


「非核都市宣言」についても同じことが言えよう。
志はもっともだけれども、声を枯らして宣言したところで、外国の核兵器はビクとも
しない。


そういう「正しい」ことを言うだけで済ませるより、もっと具体的なことを考える
時期なんじゃないでしょうか、と内田樹は言っているのだと思う。


また、「熱く戦争を語ってはいけない」という文ではこのようなことを書いている。

 誰だって気がついたと思うけれど、「テポドン」や「テロ」のときにテレビを
見ると、国防の急務であることを説く保守派の政治家が勢いづいて、喜色満面で
あるのに対して、非戦派・護憲派人権派の政治家はまるで気合いの入らない
「暗い顔」をしている。


 それも当然である。


「国防の急務である」とする主張が条理にかなったものであり、先見性を備えた
ものであることが論証されるためには、日本が外国の武力勢力によって侵攻され
ることが何よりも有効だからである。


 奇妙な話だけれど、まさにそうなのだ。


 国防の喫緊であることを説く理説が人々の注目を浴びるためいちばん効果的な
方法は「危機をあおる」ことであり、その「正しさ」を証明するいちばん確実な
方法は「侵略されること」である。


 だから、どこの国でもナショナリストは、戦争を防ぐため、国民と国益を守る
ために必死で論陣を張っているおのれの努力が正当に評価されていないという
フラストレーションを抱え込むうちに、いつのまにか、戦争が起こり、国民が
殺され、国益が損なわれることを無意識に待望するようになる。


 倒錯した欲望だ。けれども、人間というのは「そういうもの」なのだ。


だからこそ、決して怒らず、クールに具体的な打開策を考えなければならない、と
話は続く。


私がテレビで見たところ、ミサイルが発射された後にメディアに出た政治家で、
怒り狂った様子の人はおらず(当たり前だが)、ほとんどは「しょーがねーなー」
という顔だった。
裏舞台がどうなっているのかは知らないけど。


「日本人であることの『ねじれ』」という一文では、国民国家と個人との関係が
語られている。
個人的な付き合いで、日本人は中国人に過去の出来事について謝罪すべきかどうか、
という話だった。
これまた難しくややこしい話である。
私もどうしたらいいか分からない。


このところ、特定三国に対する罵りの声はウェブ上で散見される。
これは、左翼がメディアや教育の現場で主導権を持っていた時代に対する反動だと
思う。
中国や韓国と仲良く「しなければならない」と言われると、嫌だと言う人だって
いるだろう。


隣国とは、なるべくならケンカしない方がよろしい、というのは正論だ。
だが、絶対に仲良くしなければならない、という圧力は不当だと思う。
親友か敵の二つしか選択肢がないのは、どうもおかしいんじゃないか。
「ムカつく奴だけど認める」という考え方をしないとね、ということを、この本で
学んだです。


話がとっ散らかったので、おしまい。


本文と写真はまったく関係ありません

えりりん、国際政治を語る
リd*^ー^)<朝鮮半島情勢は、あっぱく感があるよね