ライフ・イズ・ビューティフル

ライフ・イズ・ビューティフル [DVD]

ライフ・イズ・ビューティフル [DVD]

実は、この映画を98年9月末にミラノで見た。
たぶん、日本人でこの作品を鑑賞した中では、早い方ではないかと思う。


私は外国の映画館に入るのが好きで、まだ日本に入ってきてない作品を安く
見られるので、旅行に行くとなるべく映画を見るようにしている。
ひとり800円ぐらいで安いしね。


ちょうどイタリアでは、ハリソン・フォード主演の「6デイズ7ナイツ」と、この
ライフ・イズ・ビューティフル」が上映されており、どっちを見ようか迷った。
しかし、イタリアではハリウッド映画をイタリア語に吹き替えており、イタリア語の
ハリソン・フォードを見たくはなかったので、何となく「La Vita è Bella 」と
書いてある映画館に入ったのだった。


もちろん、私はイタリア語をまったく聞き取れないのだが、映画にはすごく感動
した。細かい部分はサッパリ理解できなかったが、6割ぐらいのストーリーは
把握できたのである。


今日、日本語の字幕が入っているものをテレビで見て、細かい伏線や笑いの部分が
初めて分かり、8年越しに映画を完全に味わった気がした。


物語の前半で、ユダヤ系のイタリア人が友だちのクルマで、叔父さんのいる都会へ
出てきて、途中で恋人と出会い、いろいろあったが駆け落ちして結婚するまでが
描かれる。
ひたすら明るく前向きな主人公グイドは、陽気なウディ・アレンといった趣きが
ある。
笑いの部分は、サイレント時代からある古典的なギャグが多く、監督はチャップ
リンが好きなんだなぁ、と思った。


多くの人が語っていることだが、イタリアの映画館ではなぜか上映時間の半分ぐらいで
休憩が入る。ふつう、インターミッションは3時間以上の大作であるはずなのだが、
イタリアはどんな作品でも途中で中断するらしい。
館内が明るくなって、お菓子やコーラを売りに来る。私は値段が分からなかったので
買わなかったが。


後半に入ると、戦争の影が忍び寄ってくる。
主人公たちの一人息子は6歳ぐらいだろうか。商店には「犬とユダヤ人お断り」などと
いう張り紙が貼られている。
そして、ある日主人公と息子は連行されてしまうのだ。
私は、この作品で初めて、第二次大戦中にイタリア在住のユダヤ人までもが強制収容所
送られたことを知った。


ここから、主人公は息子に嘘をつき続ける。
これは1000点とれば本物の戦車がもらえるゲームだ、と。
ドイツ語をイタリア語に翻訳するとき、勝手にゲームのルールにしてしまう名場面が
あり、これは字幕なしで見たときも何となく分かった。
イタリアで見たときも、ドイツ語は字幕もなく、そのまま上映されていたっけ。


ただ、強制収容所で本当に子供が隠れ続けられるはずもなく、あまりリアリティは
ないのだが、映画の面白さはそれを上回っているので感動できる。
ていうか、イタリアは「ニューシネマ・パラダイス」みたいに、子役で泣かせる映画を
ときどき作るから困るなぁ。


私は人の親になったことがないけれど、父親は歯を食いしばってでも、息子に世の中の
最悪な部分を見せないようにする気持ちは分かる。
その普遍性は、言葉や国境を越えるのでしょうね。


いい気分でホテルに戻ると、深夜だったので入り口の扉が閉まっていた。
ノックすると従業員が出て来たが、「誰だ?」という顔をして開けてくれない。
必死で、私は宿泊客で友だちも中にいるのだ、と訴え、名前を言ったら開けてくれた。
やれやれ。


ホテルの部屋に戻ってから、この主演・監督をしているイタリア人はすごい人に違いない、
と私は‘Roberto Benigni’という名前をメモした。(そのときは「ロベルト・ベニーグニ」
と読んでいた。恥ずかしい限りだ)


帰国してからしばらくすると、日本でも上映が始まり好評のようだった。
私はイタリアで見損ねた「6デイズ7ナイツ」の試写会に行って、こりゃあ見なくて
よかったと思った。ハリソン・フォードって、この10年ロクな作品に出演してないな。


一番驚いたのは、「ライフ・イズ・ビューティフル」が米国アカデミー外国語映画賞
受賞したことだった。
授賞式のロベルト・ベニーニのはしゃぎっぷりがイタリア人らしく、まわりの米国人が
苦笑していたのを憶えている。


その後、ロベルト・ベニーニは「ピノッキオ」を撮ってコケたが、才能のある人なので
また名作をつくってくれるだろう。
嫁さんのニコレッタ・ブラスキも美人だし、フェリーニの「道」のような映画を残して
くれるとうれしい。
(なお、ベニーニはフェリーニ監督の遺作「ボイス・オブ・ムーン」に出演している)