ナポリタン

ナポリタン (小学館文庫)

ナポリタン (小学館文庫)

うちは親が外食嫌いというかケチだったので、自分で稼ぐようになるまで喫茶店
ナポリタンなど食べたことがなかった。
なので、ナポリタンという食べ物に対して、特に愛着や郷愁があるわけではない。


そもそも、バブル期までは、パスタという言葉は一般的でなく、イタリアの麺と
いえばスパゲティかマカロニだった。
どうでもいいウンチクを語ると、パスタというのはイタリア語で“小麦から作った
もの”という意味だそうで、ケーキやクッキーなどもパスタと言うらしい。
関西弁で言うところの“粉もん”ですな。


ところが、バブル期になってなぜかイタリアの文化が礼賛されるようになり、パスタと
いう言葉とともに、本格的なイタリア料理が庶民に求められてくる。
「イタめし」という下品な言葉が流行ったのも、ちょうどその頃である。


そうすると、これまでナポリタンが築いた地位は、あっさりと崩れ去ってしまう。
なんだ、ナポリタンって日本だけのニセモノだったのか、と思ったのですね。
たちまち本格的な(?)ペペロンチーノだのカルボナーラだのボロネーゼという名前が
人口に膾炙されていく。


私はちょうどそのころ大学生から社会人になったぐらいだったので、よく吉祥寺の
カプリチョーザ」で腹いっぱいになるまでクリームソースのフェットチーネ
食べたものだった。我ながらミーハーである。


一方で、明太子スパゲティというものが出てくるのだが、もしかしたらナポリタンの
凋落とパラレルな関係にあるのかもしれない。
明太子スパって、日本生まれのはずだが、あっという間に広まった印象がある。
私はよくS&Bのソースを買ってきて、うちで作って食った。旨かった。
(もっと金がないときは、マヨネーズと醤油だけのスパゲティを食ったっけ‥‥)


そんなわけで、いまや減少しつつある喫茶店ナポリタンというものを、この本を
読んでちょっと食べてみたいと思った。
ていうか、レトルトのナポリタンソースを買ってきて(100円!)作った。
まあ、あれだな、ミートソースとか明太子の方が旨いな。すまん、ナポリタン。


きっと、あだち充のマンガに出てくる、喫茶店「南風」のナポリタンが、いちばん
旨いんだよ。マスターじゃなくて南ちゃんが作るやつが。