ミュンヘン

まだ見てない人は、読むと楽しみが減ると思うのでたたんでおきます。

1972年のミュンヘンオリンピックで、宿舎のイスラエル選手たちがパレスチナ人たちの
人質になり、最終的に全員殺される。
イスラエル政府は、秘密裏に復讐を開始する。
モサドイスラエルの情報機関)に勤める主人公は、ミュンヘンでのテロ事件に
関与したアラブ人11人を暗殺する指令を受け、まずドイツへ飛ぶ‥‥。


正直、私はイスラエルパレスチナの紛争について、ほとんど知らないので、映画の
背景となっている複雑な国際状況を把握しながら見ていたわけではない。
だが、2時間44分にわたる長さにもかかわらず、ダレ場は一切なかった。


主人公は、爆弾製造・車両・証拠隠滅・文書偽造のプロとチームを組む。
仲良く食事をしながら、にこやかに話し合う場面は、話題が暗殺のことでなければ
平和そのものだ。


フランスで、ルイという名前の情報屋を通じて、主人公はアラブ人の居場所を知る。
そして、次々と暗殺は成功する。
だが、主人公たちは、逆に狙われる立場になる。
そして、仲間がひとり、またひとり消されていく。


自分も殺されるかもしれない。
ベッドや電話やテレビに、爆弾を仕掛けられているかもしれない。
最愛の家族が狙われているかもしれない。
主人公は、自分の任務の恐ろしさをようやく理解して、気も狂わんばかりになる。


スピルバーグ監督は、憎しみあうユダヤ人もパレスチナ人も、それぞれ家族や生活が
あるただの人間にすぎない、ということを、かなりしつこく描いている。
そして、どちらの立場でもない視点で物語を終わらせている。
この点が、ユダヤ魂爆発の「シンドラーのリスト」とは異なる。
9.11のテロを受けてのことだろう。ラストシーンが重い。


映画のなかで、印象的だった場面がある。
ギリシャのアジトで、どういうわけかアラブ系のテロリストたちと同居することになる。
夜になって、アラブ人たちはラジオで、彼らの好きな中東の音楽を選ぶ。
主人公たちは、地元ギリシャの音楽を流す局に変える。
アラブ人が元にもどす。ユダヤ人がまた変える。お互いに睨み合う。
しかし、ユダヤ人が米国のソウルミュージックのラジオ局にして
「これならいいだろ?」
とお互いが納得する。


【追記】
このときの曲は、アル・グリーンの『Let's Stay Together』だそうです。
一緒に過ごそうぜ、というジョークの意味もあるんだとか。なるほど。


今だったら、アラブ人たちは米国の音楽なんか聴かないかもしれないけど、当時は
米国内で虐げられていた黒人との精神的な連帯感もあったんじゃなかろうか。
そういう政治的なことを切り離しても、1970年前後の黒人音楽には、独特のパワーが
あったんだと思う。


そうそう、この映画は、ヨーロッパで暗殺者を主人公にした作品である。
スピルバーグ監督は、傑作「ジャッカルの日」に敬意を表して、かの映画でルベル警部を
演じたミシェル・ロンダールを、フランスの情報屋の元締め役で出演させている。
どっかで見た顔だと思って、あとで調べて分かりましたよ。