有頂天ホテル

面白かったですか? と聞かれたら、面白かったですよ、と答える。
ゴージャスなキャスティングが魅力だし、脚本にも隙がない。
三谷幸喜監督の最高傑作でしょう。


でも、好きか嫌いかと聞かれたら、どっちかというと好き、という答になる。
これは好みの問題だから、別にケチをつけているわけではない。


私は「ラジオの時間」「みんなのいえ」「有頂天ホテル」の三本を見て思ったのだが、
三谷監督の映画には、実にワガママな人間が多い。
というより、ワガママな人間が物語の推進力になっている。
それに気の弱い人が振り回されるという構造だ。


「ラジオの時間」では、女優のワガママに端を発し、次々とラジオドラマの脚本をぶち
壊して物語が進んでいく。
みんなのいえ」でも、設計者と大工の棟梁が、それぞれ融通がきかないまま家を建てる。
有頂天ホテル」も、代議士やコールガール、そして大物演歌歌手のワガママが描かれる。


ただし「ラジオの時間」では、ワガママが単なるワガママなのに対して、「みんなのいえ
では、それぞれのプライドが元になっており、必然性が出ている。
有頂天ホテル」でも、それぞれの事情というものが背景にあるために、いくらなんでも
それはないだろう、というほどの嫌なワガママには感じられない。


たぶん、三谷監督は、俳優や女優がいかに舞台裏でワガママであるかを、身をもって知って
いるのだろう。それがいかに理不尽であるか、腹が立ってしょうがない経験をしているの
だと思う。


しかし、それがストレートに表現された作品は、あまり面白くない。
むしろ、ワガママに理由があることが視聴者に納得されるほど受けるのではないか。


彼の最大のヒット「古畑任三郎」シリーズでは、人を殺さざるを得ないほど追い込まれた
人間が登場し、古畑はある種の敬意を持って犯人を追い詰めていく。
そこに人気の秘密があるんじゃないかしら、と思うのだが‥‥


あ、「有頂天ホテル」を見ていて、YOUだけはミスキャストなんじゃないかと思って
いたけど、最後の歌のシーンで必要だったんですね。
ああいう歌声は、確かに彼女以外には考えられませんでした。