荒木飛呂彦の漫画術

荒木飛呂彦がどういう考え方でマンガを描いているかを書いた本である。
あとがきでも書いているとおり、これはマニュアルではなく、あくまでも
荒木飛呂彦が面白いものを作るための指針で、真似をしても意味が無い。


とはいえ、マンガの基本四大構造
1.キャラクター
2.ストーリー
3.世界観
4.テーマ
というのはおさえておくべきもので、普遍性がある。



私が感心したのは、ストーリーの作り方で、「プラスとマイナスの法則」
というものがある、と書いている部分だ。

 「起承転結」という基本を覚えたところで、ストーリー作りにおいて次に大切なことは
「プラスとマイナスの法則」です。


 まずゼロの線があるとして、そこを基点に、主人公の気持ちや置かれている状況が上がって
いるか、下がっているかを考えてみます。前章で「キャラクターは必ず成長するように描く
ことが大事だ」と書きましたが、特に少年漫画は、常にプラス、プラス、プラス……と、
ひたすらプラスを積み重ねて、どんどん上がっていく、これがヒットするための絶対条件です。
スポーツ漫画で言えば、地区大会から始まって、県大会、全国大会とどんどん対戦相手が
レベルアップしていく中で主人公たちが突き進んでいくという構成や、成長していくストーリー
は、まさに「常にプラス」の典型と言えるでしょう。
(p 111 - 112)

この部分は、少年サンデーの編集者にぜひ読んでほしいものである。
もちろん、違うパターンでヒットしたものもあるだろうが、少年サンデーに欠落して
いるのは、この「常にプラス」志向である。


また、ストーリー上やってはいけないタブーとして
1.作者が語る
2.偶然の一致
3.主人公が間抜け
4.夢オチ
を挙げている。


エンターテイメントでは、読者に「このピンチを主人公はどうやって切り抜けるんだろう?」
と思わせなければならない。
そのとき、主人公が間抜けだと、そもそもピンチを招いたのは自己責任になってしまうし、
突然何もかもがうまくいって助かるような偶然の一致があると読者は白けてしまう。


書いてしまうと当たり前のことだが、マンガに限らずアニメや映画でも、ピンチの
作り方が下手な人が制作すると、本当につまらない作品になる。
見ている人が納得できる危機を作ることができたら、ヒットする可能性が高い。



あと、コマ割りについて書いてあるところも興味深かった。

 コマ割りは特にこれといった理論やルールはなく、漫画をたくさん読むことでなんとなく
理解できるものかもしれません。どうコマを割るかというのは説明されて理解するという
よりは、漫画を読んで訓練して実践する、という繰り返しが大事で、あまり余計なことを
考えない方が、よいコマ割りになるのではないかと思います。基本中の基本は、その漫画の
中で自分が伝えたい気持ちを素直に伝えるように心がける、それに尽きるのではないで
しょうか。
( p 235 )

コマ割りはマンガ家にとって生理的なものなので、他人に伝えづらいのかもしれない。
ただ、マンガ家になれる人となれない人の違いは、コマを割れるかどうかだと思うので、
もう少し掘り下げてほしかった。



マンガ家の数だけマンガの描き方があるだろうから、他の人のマンガ術も読んでみたい
ものである。


マンガ家が理路整然と語っている部分と、本人もどう説明していいのか分からない部分が
あって、おそらく作家の天才性は後者に現れるのだろう。