やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。7 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。7 (ガガガ文庫)

7巻まで読んだ。これで特典のものを除いて現在読めるものは全て読了
したはずだ。


このラノベは、司馬遼太郎風に言うならば、過去の自分への手紙である。
中学、高校とぼっちだった俺、そのままでいいぞ、というエールである。


ただし振り返っている人(つまり作者)が20代後半なので、もっとオッサン
になってからの感慨ではない。
物語でいうと、平塚先生が作者の分身であるが、年齢的にそれ以上の人間
の視点はない。あればラノベではなくなっているだろう。



おそらく、多くのラノベ作家の選手生命はプロ野球かサッカー並だと思う。
読者は常に中高生なのに、作者の年齢はどんどん上がっていく。
ある意味、若さを削って商売しているようなものだ。


だから、幅広い読者層は得られないかもしれないが、思春期の一部の少年
たちにはピンポイントで共感される。
なので、私のようなオッサンが読んでなにか感想を書くのは、ちょっと
違うのかもしれない。



このラノベでは、主人公の比企谷八幡(ひきがや はちまん)が女性を
とても怖がっている。
その原因は中学生のときに、あれこいつ俺のこと好きかも、と勘違い
して接近したら冷たく拒絶されたことが何度かあるからだ。


そのせいで、古い言い方だが、羹に懲りて膾を吹く状態になっており、
せっかく自分に好意を寄せてくれる由比ヶ浜結衣を受け容れることが
できない。
(ただし、彼女に対しては恐怖の感情も少ないようだ)


この女性に対する恐怖は、いつから多くの男性に共感されるものに
なったのだろうか。
カップヌードルのCMで、コロッセオでトラと戦う剣闘士を合コンに
見立てたものがあるけれど、ああなると女性は猛獣扱いである。


私の勝手な推測では、女性たちは可愛く振る舞うことにメリットを
感じなくなったからだ。
本性をむき出しにして生きる方が楽で楽しい、と思っているのだろう。


若いうちはそれでいいかもしれないが、それは選択肢を狭めている
だけのような気がする。まあ余計なお世話だが。
……何の話をしていたんだっけ。



作者は、女性嫌悪と社会の理不尽さを中高生の読者に得々と語って
いるかのように見える。
が、それは比企谷八幡のようなひねくれた態度であって、本当は
女性の優しさや仕事の充実感を信じている。


なぜなら、主人公に「それは本当の友情ではない」という台詞を
言わせているからだ。
本当の友情、愛情というものを信じていなければ、リア充たちの
それを欺瞞だと批判できないではないか。


それをごまかすために、物語では戸塚彩加という可愛い少年を配置
している。彼は数学でいう虚数のようなもので、そういう存在を
入れておけば、読者も主人公がただ女を憎悪しているのではない、
ということが分かるのである。比企谷八幡の妹の小町も同様。



スクールカーストについて言えば、最上級カーストとそこから脱落
したけれども上位カーストにいる相模南を描いた文化祭の話が素晴
らしかった。6巻は読み応えのある内容で、アニメと補完すると完璧
だ。


けれども、7巻の修学旅行の話になるとちょっと筆が鈍る。
上位カーストにいる戸部翔という薄っぺらい少年の描き方が、薄っぺ
らいからだ。


彼は、多くのラノベ読者が嫌悪する、ノリが軽い運動部のチャラ男で
ある。
彼の内面は、ほぼ外見どおり中味がないように描写されている。


【以下、7巻のネタバレ注意】


戸部翔は、同じ上位カーストにいる海老名姫菜という腐女子が好きで、
修学旅行中になんとかいい雰囲気になって告白したい、と主人公たち
に相談する。


それを引き受けたけれども、なかなかうまくいかない。
しかも、上位カーストの他のメンバーたちは、告白して振られることが
確実なのが分かっているため、その後のメンバー内の関係性がギクシャ
クすることを恐れ、できれば戸部翔が何もせず、このままの距離感で
いてくれることを望む。


そこで比企谷八幡は、戸部翔と海老名姫菜がいい雰囲気になるという
依頼を成立させ、なおかつ関係性を壊したくないという他のメンバー
たちの依頼も成立させるために、戸部が海老名を呼び出した場所で、
先に海老名に対してニセの告白をするのである。
(当然のことだが、今は誰とも付き合いたくない、と振られる)


文化祭のときと同様、自分が悪役になることで、全体の調和を図る。
この手法を繰り返したことに、ちょっと不満があるのだが、問題は
戸部のリアクションである。

 戸部は口をあんぐりと開け、動くことができないでいた。タイミングを
外されたせいで言うべきことを言えず、今もまだその言葉を失ったままだ。
ただ首だけがぎりぎりとこちらに向く。
「だとさ」
肩を竦めて言うと、戸部は髪を掻き上げながら、俺を恨めしそうに見る。
「ヒキタニくん……。それはないでしょー。いや、振られる前にわかって
よかったけどよー……」
 ないわー、とまるでそういう鳴き声の動物かのように、ないわーないわー
と連呼した。
(中略)
そして、靴底をずるずると引きずる歩き方で俺の前まで来ると、拳で軽く
俺の胸を叩いた。
「ヒキタニくん、わりぃけど、俺負けねぇから」
人好きするあのニカッという笑顔で俺を指すと、どこか満足げに戸部は
歩き去っていく。(p 252)


普通、どんなに頭が悪くても、自分が依頼した相手が抜け駆けをしたら、
怒るはずである。この物語だったら、比企谷八幡はその場で殴られても
不思議ではない。
ここが不自然に感じた。


このあと、比企谷八幡はヒロインたちにそのやり方を糾弾されるので、
戸部が何もしないで去ったのは後の展開を考えたからだったのかもしれ
ない。


しかし、戸部の内面は何もないのだろうか。
あるのだろうけど、そこを詳しく描写してしまうと、もはやラノベでは
なくなってしまうからなのか。


……なんだか熱く語ってしまった。長くて申し訳ない。
もっといろいろ感想はあるのだが、需要がないようなのでここで終わる。
できればアニメでも見たいので、「俺ガイル」の2期がありますように。