水疱瘡

00年2月のことだが、私は突如として水疱瘡(みずぼうそう)に罹ってしまった。
水痘ともいうが、高熱が出て全身に赤い小豆状の発疹が出る病気だ。


私は失業中だったのだが、ある日いきなり40℃近い高熱が出た。風邪かと思って、しばらく
薬を飲んでうんうん唸りながら寝ていたが、一向によくならない。


どういう用事だったか忘れたけど、そのとき熱があったというのに、三鷹市役所まで行かなけ
ればならなかった。
三鷹市役所は交通の便の悪い場所にあり、私は南口からバスに乗っていった。


その夜だったか翌日だったか、身体に赤い発疹が出た。
これは死ぬのではあるまいか、と本気で思った。
とはいえ、ようやくこの時点で、風邪ではなく別の病気であることが分かったので、病院へ行
くことにした。


発疹ということは皮膚科だろうと、近所のF皮膚科へ電話して予約を取った。
ふだんは全く気に留めてなかったのだが、駅までの電柱にかなりの数のF皮膚科の広告があっ
た。病気になって初めてありがたみが分かる。


先生に診てもらったところ、水疱瘡です、と言われた。
は? みずぼうそう? 
そんな病気は子供のころにとっくに済ませていると思った。
慌てて親に電話して確かめてみたが、水疱瘡に罹ったかどうか憶えていなかった。
母子手帳さえなくす親である。電話した私がバカだった。


潜伏期間は2週間程度だそうだ。
ちょうど私が帰省していた時期と重なる。どこで伝染されたのか。 
飛沫感染で伝染るらしいが、誰かがくしゃみをしてたっけ? 


水疱瘡に子供のころ罹るのと、大人になって罹るのでは、身体の表面積が違うから、大人のダ
メージの方が大きい。
私は皮膚科の先生に出してもらった軟膏を発疹に塗りつけながら、痕になって残らなければい
いいが、と心配した。
が、考えてみれば誰にハダカを見せるわけでもなし、関係ないのだった。


発疹は顔にも出た。もう気持ち悪いどころの騒ぎではない。
幸い失業していたので、誰にも接触することなく、家にこもっていられた。
そのうち熱も引き、発疹も徐々に消えていった。軟膏がよく効いたのだ。


ところがである。
病後、近所に住む友だちと会って1ヵ月ぐらい経っただろうか、なんと彼が帯状疱疹になって
しまった。水痘と同じウィルスで罹る病気である。


そのときになってようやく、私は全身から水痘ウィルスを撒き散らしているときに、三鷹市
所行きのバスに乗ったことを思い出した。


もし、00年2月中旬から下旬にかけて三鷹市近辺で水疱瘡が集団発生していたとすれば、原因は
私である可能性が高い。
本当に申し訳ないことをした。


いま、首都圏を中心にはしかが流行し大学が休校しているが、きっかけは私のように伝染性の
病気だと知らずに、公共交通機関に乗ったからではないかと思われる。
自戒をこめて、予防接種を受けとけばよかったな、と。


本文と写真はまったく関係ありません

日付は去年のものです