科学はどこまでいくのか

科学はどこまでいくのか (ちくま文庫)

科学はどこまでいくのか (ちくま文庫)

先日、日本PTA全国協議会が調査した「子どもに見せたくないテレビ番組」が発表された。
不思議なことに、この中には「オーラの泉」も「ズバリ言うわよ!」も入っていない。
(なにしろ、1位の番組は「ズバリ言うわよ!」の裏番組だし)


新聞には5位まで発表されていたが、もっと詳しく知りたかったので日本PTA全国協議会
ホームページを見た。しかし、調査した内容については何もなかった。
それより、ページを開いたとたん“埴生の宿”が流れてきたのにビビッた。
(私は、いきなり音が出るサイトは、ちょっとヤバい人が運営していると判断している)


この調査に協力した全国の小中学生の保護者は、江原・細木が大好きなのかもしれない。
だとしたら、その子供の頭も推して知るべきだろう。
そして、何の意味もないアンケート結果を毎年そのまま発表しているメディアも哀れだ。


このように、前世とか占いを何の検証もせずに放送し、結果的に高視聴率をあげている状
況は、明らかに視聴者のリテラシーが低下している証拠だと思う。


では、前世とか占いを検証するはずの科学はどうなのか? 
この本によれば、科学も万能の解ではなさそうである。

 百年ほど前までは、我々が住む地球という自然の大きさと力に比べ、科学の力はあまり
にも弱く、科学を野放図にのさばらせておいても、さして問題は生じなかったのだ。


 しかし、ここ五〇年ほどのあいだに、科学はとてつもなく巨大になり、自然環境を変え
るほどになってきた。その結果、様々な悪影響が現れ出したのは周知のことである。


 我々は巨大になりすぎた科学をなんとかコントロールしなければならない。そのために
は、まず、科学や科学者とは何かを知る必要があり、さらに、それらの生理や生態や病理
についても知らねばならない。


 科学は自己増殖性という本能をもつゆえに、自分自身で自己をコントロールすることが
できない。長い間人々は、科学にコントロールされ続けてきた。しかし今や、普通の人々
が科学をコントロールしなければならない時代になったのだ、と私は思う。


池田はこのように述べてから、そもそも人間が自然をどのように理解し、どのように記述
するようになったかを解説する。
ちょっとした科学哲学史の講義を聴いているような感じだ。


途中でかなり難しいところがあって、私もよく分からないまま読み飛ばしてしまったが、
結論としては、科学という物語に、人間の欲望や権力が結びついて巨大になっている現状
はちょっとヤバいんじゃないの、というものだ。
なるほど。


具体的には書かれてなかったが、私は読んでいて軍産複合体を連想した。
軍需産業は絶対に縮小せず、必ず最新技術を求めて予算を食い続ける。
軍事技術も科学の最先端のひとつなので、科学をコントロールしなければヤバい、という
指摘に当てはまるだろう。


そうした科学のアンチテーゼとして、池田は仏教を挙げている。

 教祖の言うことを学び、ただそれに従っているだけでは、人は教祖に並ぶことは決して
できない。釈迦が苦行の果てに悟ったように、あなたも自ら悟ることにより、釈迦と同じ
至高の悟りに達することができる。人が何かに隷属するのではなく、自立して悟りを開く
ことは、個々人の行為を最高度に尊重する思想でもある。個々人は繰り返し、同じような
経験をし、同じような悟りを開く。そしてそのままそれが至高の生き方であるという思想
は、現在の流行の言葉を使えば、極めてエコロジカルなものである。


 ただし、この思想には、知識の累積とか経験の蓄積とかの物語はない。進歩と発展とい
う物語(すなわちそれは資本主義と科学技術という物語でもあるが)にどっぷりつかった
現代社会では、しょせん仏教の思想はマイナーになるほかないのかも知れない。

それにしても、いつになったら一神教の呪いは解けるのだろうか。


文庫になったときに加えられたあとがきに、『医者が病気をつくる!?』という文章があり、
面白かったので一部抜粋する。

メタボリックシンドロームは言うに及ばず、高血圧症や高脂血症の基準に厳密な科学的な
根拠があるわけではない。だから、それらは学会の都合によりかなり恣意的に決めること
ができる。たとえば、日本高血圧学会は2000年に高血圧の基準を160/95mmHgから140/90mmHg
に変更した。その結果、日本の高血圧症の人は1600万人から3700万人に増えた。


 ガンでもないのにガンだと偽って手術をすれば犯罪だ。しかし、高血圧の基準を変えて
高血圧症の患者を作り、血圧降下剤を売りつけても犯罪にはならない。前者は科学的事実
であって言い訳が利かないが、後者は科学的事実でなく、学会の定義により決まったから
だ。しかし、多くの一般人はそんなことは知らない。


結局、騙されないためには、みんながある程度賢くないといかん、ということになるが、
なかなかそうはいくまい。
それどころか、スピリチュアルや六星占術で大儲けしている人もいる時代だ。


私はまだ科学教を信じる方だけれど、このままだと人間の未来は暗いと思う。


本文と写真はまったく関係ありません

アポロ11号オルドリン飛行士