UDON

ネタバレしているので隠します


良くも悪くもフジテレビ制作らしい映画だった。
例えば、警察の官僚組織という、ふだん一般の人が知らないような素材を、フジテレビという
ブラックボックスに放り込むと「踊る大捜査線」ができるように、うどんを扱ったらこういう
作品ができました、という印象だ。


これは悪口ではなく、ある程度のクォリティがあって、話も盛り上がり、細かいトリビア
ちりばめてある、デートで見るにはもってこいの仕上がりになっているということだ。
いまの邦画の製作現場が、きちんとマーケティングを行っているということだろうか。


物語は、主人公のユースケ・サンタマリアが挫折して田舎に戻ってくるところから始まる。
そして、地元の人は当たり前に食べているが、その質の高さに誰も気づいていない製麺所の
うどんをタウン誌に紹介することで、一連の讃岐うどんブームが起こる。
ここまでが前半。


そして、ユースケは実家の製麺所を継ぐため、父親と和解しようとするのだが、その矢先、
父親は帰らぬ人となる。
しかし、そのうどんの味を懐かしむ人々のために、父親の味を再現しようとがんばって、
なんとかうどんを作るのが後半。


実は私も讃岐うどんブームに乗って、松山からクルマやバスで香川県までうどんを食べに
5回ぐらい行ったことがある。高速で2時間ぐらいだし。
そのとき手にしていたのが、麺通団の「恐るべきさぬきうどん」なのだが、正直この本の
文章は嫌いだった。いかにもタウン誌にありがちな内輪うけを仲間ではしゃいでいるよう
に感じた。


とはいえ、紹介してある有名な店のうどんは、革命的に旨かった。
映画の冒頭で、ユースケと小西真奈美が迷い込んだ「三島製麺所」は、本当に看板も
なく、ただの民家なので発見するのに苦労したが、まあそのうどんの美味しかったこと。
自分で丼や箸を持参して食べた「道久製麺所」の麺のコシは、今でも思い出せるほど
インパクトがあったし、「山越」の釜玉のやわらかさには舌鼓を打って二回行列に
並んだほどだ。


そういう有名店が次から次へとテンポよくスクリーンに映される前半部分は、行ったことの
ある人間にとっては快感だった。
自分も映画に参加しているような気分になれたし。


ただ、後半の父親の味を再現するパートになると、物語のテンションが落ちていき、
感動させようとする方向にシフトしてしまった。
これは、好みなので批判ではないけれど、前半にあれほど出て来た香川県うどん屋さんが
おいてきぼりになるような感じがした。うまくストーリーが接合されてないというか。


ひとつ気になったのは、映画でトータス松本が「田舎の口コミは、インターネットより速い」と
豪語していたが、ユースケの実家の訃報や店の閉鎖の情報が、どうして知られなかったの
か説明できていないことだ。
だから私は、学生たちの寄せ書きノートや最後の大行列を、素直に感動できなかった。


また、小西真奈美もよく分からないキャラクターで、なんでユースケが父親の味を再現する
のを手伝うのか、きちんと語られていなかった。
恋愛臭を消すのが、この監督の作戦なのかもしれないけど、だったら最後にニューヨーク
までユースケに会いに行くのもどうかと思う。
(あと、どうでもいいことだが、メガネをかけるんなら最後までかけといてほしかった)


「ここには夢なんかない。あるのはうどんだけだ」
というセリフがある。
まさにその通りなのだが、香川県に暮らしている人にとってはけっこうキツく響くと思う。
だって、夢や才能がある人は県外に出なければ意味ないよってことでしょう? 
残酷だけど事実だし。


それは香川県だけじゃなく、ほとんどの地方にとってもそうなんじゃないかな。
私の住んでいる愛媛県だって、夢なんかなくて、あるのはミカンだけだもの。


じゃあ、愛媛の人のソウルフードはミカンなのかといえば、なんか違うような気がする。
料理じゃなくて果物だし。
とはいえ、私は都会の人がミカンを買うというのが信じられなかった。
だって、愛媛県ではたいてい冬になるとどっかから段ボール箱一杯もらってきて、タダで
食べていたから(もちろん八百屋で買うひともいるけど)。


話がズレてしまったなw
この映画には、香川県出身の芸能人がこれでもかというほど出演している。
要潤南原清隆、松本明子、高畑敦子、藤澤恵麻などなど。
チョイ役で出ている人も多いから、それを探すのも楽しいかもしれないね。


なお、讃岐うどんに関してはこの本が面白かった。

うどんの秘密―ホンモノ・ニセモノの見分け方 (PHP新書)

うどんの秘密―ホンモノ・ニセモノの見分け方 (PHP新書)

東京の蕎麦屋さんがうどんについて書いているのだが、視点が新鮮で小麦についても
科学的に考証しているので、理系の人が読んだら腑に落ちる部分も多いのではないか。


讃岐うどんブームは一段落してしまったけれど、ミニスカートのように一般的に定着した
のではないかとも思う。
水と塩と小麦粉だけで、どうしてあれほどバリエーションがあるおいしい麺が作れる
のか、考えてみると不思議だけど、旨いうどんを食べるのはとても楽しい、ということが
この映画から伝わればいいな、と思うです。