原稿紛失事件

雷句誠の「金色のガッシュ!!」のカラー原稿5枚が紛失し、小学館が一枚あたり
17000円の三倍の原稿料で賠償額を申し出たが、作者は低すぎるとして提訴した、
という報道を見た。


カラー原稿は活版原稿の倍だとすると、通常の原稿料は一枚8500円か。
雷句誠クラスの原稿料は、現在はこのくらいということか。


マンガの原稿料というのは、そもそもどういう経緯でこのぐらいの値段になった
のか、私はよく分からない。
一枚8000円として、毎週16ページ描いたら1ヵ月で64枚だから、月収は51万2000円
になる。


この費用から作画にかかる経費を引いたものがマンガ家の手取りになるわけだが、
アシスタントを何人か雇わないと週刊連載は絶対にできないから、彼らに給料を
出さなければならない。
そうすると、月に51万ではちょっと厳しいことになる。


なので、マンガ家の本当の収入は単行本の印税なのだが、これはある程度原稿が
たまらないと本にならないし、いきなり何百万部も売れるわけではないから、連
載を開始したばかりの新人マンガ家は、けっこう大変だ。


マンガ家の原稿料が上がらない理由は、そもそもどのくらいの値段をつけたらい
いのか分からないからだろうし、大物作家や中堅作家は単行本である程度の収入
が見込めるから、原稿そのものの値段にこだわらないからかもしれない。


ところで、大手出版社から出ているマンガは、単行本にするとき、たいてい編集
プロダクションに丸投げされる。私も何冊か講談社のマンガを作ったことがある。


編集プロダクションで原稿が紛失することは、あまり考えられない。
というのも、そもそも原稿がないと単行本を作る作業ができないからだ。
そして、校了したものを印刷所に送稿した時点で原稿がそろってないと、印刷所
が困る。
だから、カラー原画だけが紛失することはないはずだ。


単行本が無事に印刷されると、印刷会社から出版社に原稿が戻ってくる。
この時点で本来ならば原稿を確認して作家に返却しなければならないのだが、多
くの場合、編集部に置きっぱなしになる。
なぜか? 


例えば、少年サンデーの次号予告や単行本の広告を作るときに、「紙焼き」と呼ば
れるコピーをとることがある。そのコピーを材料にして、予告なり広告をレイアウ
トするわけだ。
紙焼きには元の原稿が必要である。
そのために、なるべく手元に昔の原稿があった方がいいのだ。


次号予告や単行本の広告を作るのは、たいてい下っ端編集者の仕事だから、原稿
は担当編集者から借りてくることになる。
このとき管理が杜撰だと紛失する可能性がでてくる。


今はどうか分からないが、昔のマンガの編集部の原稿管理はけっこういいかげん
だった。
紙袋に入れて棚に入れてあるだけ、という場合が多くて、きちんとカギのかかっ
た金庫に入れることはなかったと思う。


出版社を訪れた人は分かると思うが、編集者の机の上は汚い。書類の山である。
中にはきちんと整理している人もいるが、紙の山が崩れそうになっているデス
クの方が多い。


そういう山の中に、新人作家の原稿が埋もれていることもある。
連載中の作品はそんなことはないだろうけれど、デビュー前のマンガ家の原稿
が紛失することは稀にあった。


原稿はマンガ家が命を削って描いたものである。
それに、名作となったマンガは繰り返し再版されるから、出版社にとっても宝
であろう。
この際、裁判できちんと話をつけて、出版社側の管理体制を見直すべきだと思
う。


そういえば、最近は白黒原稿を読み込んでパソコン上で色をつけることが多い
はずだ。その場合、カラー原稿が紛失したといっても、元のデータは残ってい
るわけだから、原稿の値段というものも違ってくるんじゃなかろうか。


それとも、浮世絵のように、版画だけどひとつひとつが美術品という扱いにな
るのかしら? そういうルール作りも整備しておいた方がいいかもしれない。