*[本]トラクターの世界史

名著だと聞いていたが買いそびれてしまい、ジュンク堂で見つけたので
読んでみた。
とにかくトラクターに関することであれば、いかなることでも目を通す、
という迫力が感じられた。文学作品への目配りもあって、滋味深い内容
だった。


人類が数千年にわたって人か家畜で耕していたことを、ここ100年ぐらいで
機械化できた事実に驚くべきだろう。
ただ、それによるデメリットもあって、スタインベックの「怒りの葡萄」で
描かれたダストボウルの原因のひとつがトラクターによる土壌圧縮だという。
てっきり自然災害かと思っていたが、現在でも無計画にトラクターを使って
いるところでは起こることだという。


また、デメリットというわけではないが、トラクターは戦車の開発の出発点
だった、という事実も知った。
農地を走行するために開発された履帯が、戦車に転用されたそうだ。


さらに、有名なエピソードで

 ランボルギーニが高級車メーカーに変貌と遂げるのは、トラクターで富を
築き、高級車のコレクターになったからだ。「順調に仕事がうまくいったころ、
彼はフェラーリを購入したが、どうしてもその走りや性能に満足できなかった。
[トラクター工場内で]車を分解してみると自社のトラクターと同じ部品が
使われており、しかもその部品には何倍もの値段が付けられていた。納得が
いかなかったためエンゾ[エンツォ]・フェラーリ[1898-1988]に直接面会
したものの、まともに相手にしてもらえなかった。そこで対抗心を燃やし、
1963年にモーデナとボローニャのあいだに位置する小さな町で現在の本社・
工場があるサンタガタ・ボロネーゼにランボルギーニ自動車を設立した」
(松本敦則「戦後経済と『第三のイタリア』」)(p163-164)

というのが紹介されていた。
現在ランボルギーニのトラクター部門は別の会社の傘下に入って生産を
続けているそうだ。


ちなみに米国の著名人には、トラクターのコレクターもいるそうだ。
成功して広い農場を手に入れて、自分でトラクターを運転するらしい。



最後の方にはトラクターの騒音や振動・安全性の問題についても触れられて
いる。
なぜ技術者はトラクターの乗り心地について乗用車ほど気にしないのだろう? 
そこまでコストをかけなくても売れるからだろうか。
いつかロールスロイスのような静かなトラクターが開発されることを祈っている。