*[本]お友だちからお願いします

お友だちからお願いします (だいわ文庫)

お友だちからお願いします (だいわ文庫)

冒頭に書いているが、かなりよそゆき仕様になっている。
なので一人称の俺率が激減していて、内容の破壊力も大幅にダウンして
おるのだが、よそゆきなりの品の良さというのがあって、特に第4章の
エッセイなどは教科書に載ってもよさそうな感じだ。


このエッセイで分かったことは、
1) 三浦しをんはウォシュレットを使っていない
2) 町田から引っ越してしまったようだ
3) EXILEに夢中である
ということか。
ウォシュレットは使ったほうがいいと思うがなぁ……


もうひとつ、三浦しをんは母親と仲が悪いということも分かった。
これまでのエッセイにも母親は登場し、ちぐはぐな会話を交わしていたし、
このエッセイでも一緒に温泉旅行に行ったりしている。


が、本書に収録されている「理不尽の権化」を読むと、その憎しみは
かなり根深いのでは、と思わせる。

 どちらかというと怒りやすい質なので、わりと常にいろんなものやひとに
対して、「死ね」とか「殺す」とか思っている。思ってはいるが、本気で死ね
と言ったり殺そうとしたりしたことはない。


 しかし、なにごとにも例外はある。母親だ。母という理不尽をまえにすると、
我が胸の内にとたんに「死」と「殺」が本物になる。


 私はこれまで百万回ぐらい、「死ね、頼むから死んでくれ」と心から母に
懇願してきた。包丁の刃先が母の腹のほうへ向き、しかもその包丁を持つ
自分の手が怒りでぶるぶる震えているのに気づいたときには、さすがに「まずい」
と思った。「母を殺すのはまずい」と思ったのではなく、「こいつのせいで
殺人犯になるなんて……。自分をもっと大切にしなきゃまずい」と思ったのである。
あれが一番、私が殺人衝動に近接した瞬間だった。
(p 266)

このようにかなり物騒なことを書いている。


が、私にはよく分かる。全く同じことを母親に対して感じているからだ。
理不尽というか、こちらの言うことが全く通じない苛立ち。あれは何なの
だろうか。日本語なのに言葉が通じない徒労感がある。


三浦しをんの小説に、母親に対するどす黒い感情を描いたものがあるなら
読んでみたい、と思わせる名エッセイだった。