この世界の片隅に

ようやく松山でも上映された。大晦日が初日で、私は元日の初回に見に行った。
大街道シネマサンシャインの140人ぐらいの劇場に7割ぐらい入っていただろうか。
元日の午前10時10分からの回でこんなに人がいたのに驚いた。
映画の日で1100円で見られることも寄与したかもしれないが、待ち焦がれていた
人も多かったと思う。


自分の中で期待しすぎていたものは、実際に見るとそうでもなかったりするが、
この世界の片隅に」は期待を上回る名作だった。


その理由のひとつは能年玲奈のやわらかな語り口で、これは映画館から出たあと
にも耳に残った。
もう一つは日常シーンのふんわりした絵と、爆撃や爆弾のリアルな描写のギャップ
だろうか。機銃掃射や砲撃の音は、身体がビクッとなるほどすごかった。
本物の音は聞いたことがないけれど、ミリヲタの人も納得なのではなかろうか。


私が好きだったのは、「やってしもうたー」というときのすずさんの表情と
ポーズで、劇中に何度も出てきて笑わせると同時に前向きな印象を残す。
それだけに終盤の悲劇が浮き上がってくる。


これは「戦争はいかんことじゃ」としみじみ思わせる映画でもあるが、戦前の
広島の日常はこういうものだったのか、と疑似体験させてくれる映画でもある。


そしてこの日常はいまの我々と地続きであり、戦争もまた同様である。
私はこの作品をシリアの難民が鑑賞したらどう思うだろうか、と想像する。
アレッポで暮らしていた人々は、まさにこのような生活感覚だったのでは
なかろうか。



広島カープリーグ優勝、オバマ大統領が平和記念公園で演説、この世界の片隅に、と
2016年は広島の年だったのではないか、とさえ思う。
と同時に、日本シリーズ優勝を逃し、トランプが選挙に勝ち、能年玲奈は民放に
プロモーション出演できない、という年でもあった。


せめて「この世界の片隅に」は、地道な口コミによって息の長いヒット作になって
ほしいと願っている。


ちなみに少年サンデー5・6合併号の目次ページの作者への質問「2016年で最も
面白かった映画を教えてください(複数回答可)」で、「この世界の片隅に」と
答えたのは、田中モトユキ椎名高志横山裕二で、まだ見てないけど見たいと
言ったのが田辺イエロウだった。
あとは「シンゴジラ」と「君の名は。」「ズートピア」が多かった。