「超常現象」を本気で科学する

「超常現象」を本気で科学する (新潮新書)

「超常現象」を本気で科学する (新潮新書)

もともとはビートたけしとの対談から本書を思いついたそうだ。
幽霊や超常現象を、「存在する/しない」ではなく「役に立つ/立たない」と
いう視点で捉えてみよう、という趣旨の内容である。
いわば、工学的な見方で超常現象を考える、ということか。


もちろん、エセ科学を騙って人をだますような行いは撲滅しなければならない
と書いてあり、いかがわしい内容の本ではない。
もし何らかの超常現象が認められるならば、それを創造的なことに利用すべき
である、という主張である。


本書では、「第四の精神状態」というものが解説されている。(p85)

 臨死体験や体脱体験、そして金縛りや明晰夢を、一括してひとつの精神状態として
分類できる可能性がほのかに見えてきます。最近、それを具体化した説を米国の神経
科学者で神経内科の臨床医でもあるケヴィン・ネルソンが提唱しています。


 ネルソンは、神経系のバランスに注目しました。人間の覚醒状態は交感神経系
ホルモンで維持され、睡眠状態は副交感神経系ホルモンで誘導されています。
そして人間は通常、覚醒状態では睡眠の仕組みが抑制され、逆に睡眠状態では
覚醒の仕組みが抑制されています。そして、この双方はシーソーのように、
両神経系のホルモンでたがいに抑制しあっていて、副交感神経系が支配的な
睡眠状態では、一般に脳の活動度が低いのですが、夢見状態では例外的に脳の
活動度が高くなっています。


 こうした関係はよく知られた生理学的事実ですが、ネルソンは臨死体験
体脱体験を経験する精神状態を、覚醒状態、睡眠状態(いわゆる深い眠り)、
夢見状態(いわゆる浅い眠り)に次ぐ、特別な精神状態とみなしました。
研究者の間では「第四の精神状態」とも呼ばれるこの精神状態では、神経系の
バランスが崩れて相互抑制が効かなくなり、交感神経系と副交感神経系の両方が
活性化した状態にあると考えたのです。


この、いわば眠っている状態と起きている状態が同時に起こっているような
ときに、人は創造的な発見をすることが多いのではないか、という仮説が
展開されている。


幽霊を見たと錯覚したり金縛りに遭ったり、という役に立たない部分もある
けれど、セレンディピティを発揮することもある、というわけだ。



この本を読んだあとで、ソニーエスパー研究所を思い出した。
井深大が亡くなってすぐに潰されてしまったが、この研究所が蓄積した
データはどうなってしまったのだろう。