アコースティックというのは電気楽器との対比でそう名付けられている。
楽器の音を大きく鳴らしたい、という欲望が電気楽器を発明したのだと
思うが、それまでは人海戦術で楽器の数を増やすしかなかった。
米国のジャズの歴史によると、ダンスの伴奏の規模が拡大して、ビッグ
バンドを生み出したという。
まだ電気楽器はポピュラーではなかったので、人の数を増やして大きな
ホールでも迫力のある演奏をしていたのだろう。
ところが、ダンスの下請けは面白く無い、と自己表現を追求する演奏者が
現れる。いわゆるモダンジャズである。
彼らは、多数の人が踊るホールで演奏するわけではなかったので、その
編成は少人数だった。
当然、アコースティックである。
1960年代になると、電気楽器とりわけエレキギターのサウンドが主流に
なっていく。
ひとりでも信じられないぐらい大きな音を出せることは、音楽の革命
だったと思う。
劣勢に立たされたジャズは、マイルス・デイヴィスを先駆者として電気
楽器を導入する。
が、残念ながら後にフュージョンと呼ばれるようになるこのジャンルは、
現在ではあまりポピュラーではない。複雑すぎて敷居が高いのだろう。
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ぐだぐだとジャズの流れを書いたのは、私が電気楽器を導入する前の
アコースティックなマイルス・デイヴィスは好きなのに、それ以降の
エレクトリックなマイルス・デイヴィスはよく分からない理由を説明
したかったからである。
結論を述べると、アコースティックなマイルスはわりとしょぼい音響
でも満足できるが、エレクトリックなマイルスはでかい音響でないと
真価が分からない、ということだ。
良いヘッドホンでも可能かもしれないが、やはり巨大なスピーカーの
爆音でないと感じられない何かが、エレクトリックなマイルスには
あるように思う。
そういう再生環境は、素人にはなかなか難しい。
ロックやファンクでも同様に、でかい音でないと分からないことがある
と思う。
米国では大人気なのに、日本ではそうでもない、というバンドがいると
すれば、再生環境が原因なのかもしれない。
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21世紀になると、再生環境はイヤホンになった。
多くのポピュラー音楽は、イヤホンで聴くのが一番ここち良いように
最適化されている。
一方で、それに飽きたらない人はライブに赴くようになっている。
なんだか極端になってしまったが、20世紀的な爆音のロケンロールは、
その時代のミュージシャンとともに、もうすぐなくなってしまうのかも
しれない。
同様に、20世紀的なモダンジャズも滅びる運命なのだろう。