Boaz2014-01-18

アコースティックというのは電気楽器との対比でそう名付けられている。
楽器の音を大きく鳴らしたい、という欲望が電気楽器を発明したのだと
思うが、それまでは人海戦術で楽器の数を増やすしかなかった。


米国のジャズの歴史によると、ダンスの伴奏の規模が拡大して、ビッグ
バンドを生み出したという。
まだ電気楽器はポピュラーではなかったので、人の数を増やして大きな
ホールでも迫力のある演奏をしていたのだろう。


ところが、ダンスの下請けは面白く無い、と自己表現を追求する演奏者が
現れる。いわゆるモダンジャズである。
彼らは、多数の人が踊るホールで演奏するわけではなかったので、その
編成は少人数だった。
当然、アコースティックである。


1960年代になると、電気楽器とりわけエレキギターサウンドが主流に
なっていく。
ひとりでも信じられないぐらい大きな音を出せることは、音楽の革命
だったと思う。


劣勢に立たされたジャズは、マイルス・デイヴィスを先駆者として電気
楽器を導入する。
が、残念ながら後にフュージョンと呼ばれるようになるこのジャンルは、
現在ではあまりポピュラーではない。複雑すぎて敷居が高いのだろう。



ぐだぐだとジャズの流れを書いたのは、私が電気楽器を導入する前の
アコースティックなマイルス・デイヴィスは好きなのに、それ以降の
エレクトリックなマイルス・デイヴィスはよく分からない理由を説明
したかったからである。


結論を述べると、アコースティックなマイルスはわりとしょぼい音響
でも満足できるが、エレクトリックなマイルスはでかい音響でないと
真価が分からない、ということだ。


良いヘッドホンでも可能かもしれないが、やはり巨大なスピーカーの
爆音でないと感じられない何かが、エレクトリックなマイルスには
あるように思う。
そういう再生環境は、素人にはなかなか難しい。


ロックやファンクでも同様に、でかい音でないと分からないことがある
と思う。
米国では大人気なのに、日本ではそうでもない、というバンドがいると
すれば、再生環境が原因なのかもしれない。



21世紀になると、再生環境はイヤホンになった。
多くのポピュラー音楽は、イヤホンで聴くのが一番ここち良いように
最適化されている。


一方で、それに飽きたらない人はライブに赴くようになっている。


なんだか極端になってしまったが、20世紀的な爆音のロケンロールは、
その時代のミュージシャンとともに、もうすぐなくなってしまうのかも
しれない。
同様に、20世紀的なモダンジャズも滅びる運命なのだろう。