陽だまりの彼女

公開5日目のレイトショーで観客は40人前後。9割が若い女性だった。
映画の終わりになって、そこかしこから鼻をすする音が聞こえてきた
から、作品としては成功したのだろう。


※以下は個人の感想です。ネタバレもあります。


原作を先に読んでいたので、私はこの映画をあまり楽しめなかった。


まあ悪口を書く前に、いいところも挙げておこう。
中学生の時の渡来真緒を演じた、葵わかなが素晴らしかった。
よくあんなネコっぽい雰囲気の子を見つけてきたものだ。


松本潤上野樹里はもちろん、大倉孝二塩見三省らのキャスティングも
よかった。役者については何の文句もない。
(顔にマーガリンを塗られた子の憎々しげな演技もよかった)



では、悪口を書く。
最悪なのは原作にない登場人物を作ったことだ。
特に夏木マリが演じる猫おばさん。
そういう理由付けをしないと観客が理解できないと思ったのだろうか。
だとしたらバカにしている。


ネコが人間に生まれ変わった理由が分からないところが、この物語の
キモなのに、どうして余計なことをするのかなぁ? 
じゃないと三度目に生まれ変わった仔猫を見つけたときの感動がない
じゃないか。


もうひとつ、上野樹里の上司の玉山鉄二も原作にはいない。
これも必要ないよね。
松本潤のライバルが必要だったと考えて作ったのかもしれないが、
この物語は大切な思い出を失う話であって、恋愛が成就する過程を
追う話ではない。三角関係はいらないのです。


それから松本潤の弟役も何のために出ていたのか理解できない。
なんかムカつく顔だなぁと思って調べたら「泣くな、はらちゃん」で
越前さんの弟役で出ていた奴だった。これも必要のない役だった。
そういう役者なのかもしれない。



原作に登場しているが映画には出てきていないキャラクターもある。
重要なのは上野樹里の女子大時代の友達のモモちゃんだ。
「合コン荒らし」のエピソードから、真緒がどれだけ執念深く浩介を
探していたか分かるのに、全てカットされていた。ありえない。


もうひとつ、これはカットしてもよかったけれど個人的に見たかった
のは、中学のときに真緒をいじめていた潮田という女の息子である。
名前は亞呂覇(あろは)。素敵なDQNネームだ。
レストランで偶然再会したとき、主人公たちは亞呂覇の身体に、彼自身
の手でオリーブオイルを塗りたくらせる。その復讐がなかったのが残念。


真緒が銀行からお金をおろして部屋に隠しておく話もなかった。
これも重要なエピソードのはずだが、カットした理由が知りたい。



原作を読んだときに、この感動はペット・サウンズの「素敵じゃないか」が
半分担っているんじゃないのか、と思ったけれど、映画を見たら原作が
好きになった。原作厨だ。


映画館で泣いていた若い女性たちも、できれば文庫本を読んでほしい。
そして、ミュージックビデオ上がりの何も分かっていない監督を罵って
いただきたい。
雰囲気だけの映画ばかり撮ってんじゃねぇ、と。