私は書店のレジに若い女性がいても、平気でフランス書院文庫を
出せる。
もはや他人にどう思われようと関係ないからだ。
大都市で暮らしている人は、自分の生活圏の外へ出ると他人
ばかりになるから、楽といえば楽か。
が、焼畑農業のように、店やコミュニティを使い捨てていたら、
やがてどこにも行く場所がなくなってしまいそうである。
なので、なるべく目立たないようにする人が多いのだろう。
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印象に残らない普通さを身につけるのが一番かもしれない。
誰の記憶にも残らない人間は、とても自由な気がする。
私は、フランス書院文庫を買ったキモいオッサン、という印象を与えた
かもしれないが、彼女は私の顔を翌日まで憶えていないだろう。
私もレジの女性の顔を、数日後には忘れている。
それでいいのだ。
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しかし、もし昔の教え子がレジにいたら、私は決してエロ本など
買わないようにする。見栄を張ってしまうかもしれない。
結局、他人にどう思われてもいいとうそぶいていても、知っている
人には良く思われたいわけだ。
我ながら人間が小さい。
