ウルトラマンが泣いている

サブタイトルに「円谷プロの失敗」とあるように、ユニークな特撮作品を
作っていた円谷プロが、一族の手から離れてしまうまでのいきさつが書か
れている。



著者は円谷英二の孫にあたる六代目社長の円谷英明で、主に三代目社長の
円谷皐の経営能力のなさを語っている。
もっとも、一方的な手記なので、それぞれの立場からは別の言い分もある
だろう。
そこは割り引いて読む必要がある。



身も蓋もない言い方をすれば、無能な経営者たちが過去の遺産を食い潰して
会社を乗っ取られただけの話である。
逆にいえば、約50年もそれだけで食っていけたのだからすごい。


読んでいくと、著者が六代目の社長になったときに、先代からの使途不明金
が巨額なので驚いた、という記述がある。
じゃあ、円谷プロの会計監査人は何をしていたのだろう? 
一応、株式会社なのだから、きちんとした決算書を株主総会に提出しなけれ
ばならないはずだが、粉飾決算でもしていたのだろうか。


タイのプロダクションに著作権を譲った話も、どういう成り行きでそうなった
のかよく分からないし、おそらくヤクザが一枚噛んでいるに違いない。
表沙汰にできないアングラマネーがあったのだろう。



ウルトラマンに対して、仮面ライダー戦隊ものは現在でもシリーズが
製作されており、売れ行きも好調のようだ。
そもそもの著作権石ノ森章太郎にあるから、他の関係者によるゴタゴタ
が少なかったのではないか。


あるいは、東映や玩具会社ががっちりと利権を確保していたので、石ノ森
章太郎が亡くなってからも、続々と次の企画を立てることができたのかも
しれない。


ドラえもん」などの藤子キャラも、同じように守られていくのだろう。



本書に、2001年に発行された「円谷英二 生誕一〇〇年」という本から
庵野秀明の文章が紹介されている。孫引きになるが引用する。

「特撮物はテレビでの空白期間が長すぎて、現状では若者に定着しづらいんじゃ
ないですかね。(中略)空白期間が十五年近くあるわけで、これはなかなか取り
返しがつかないと思います。今の三〇歳から二〇歳ぐらいまでの人は、特撮に
何の興味もないですからね。(中略)僕等の世代はアニメと特撮という共通体験
があるんですけど、今の若い人はアニメとゲームなんですね、共通言語が。
特撮をほどんど見てない、というか興味もない人がほとんどです。(中略)
そういった土壌の違いとかもあるんじゃないでしょうか」 p 124

空白期間というのは「ウルトラマン80」が終了した1981年から「ウルトラマン
ティガ」が放送された1996年までの間、地上波でウルトラシリーズのレギュ
ラー番組がなかった時期をいう。


これをふまえて「館長 庵野秀明 特撮博物館」を見ると、より深い思いが
込められていたように感じただろう。
あれは失われつつある特撮へのレクイエムだったのかもしれない。


ていうか、エヴァの映画が終わったら、庵野秀明に特撮ものを一本撮らせたら
いいのに。そういう企画をぶちあげるプロデューサーはいないの? 



初版の帯が銀色で、真ん中に赤いがあるのが粋なデザインだ。
タイトルはむしろ「円谷英二が泣いている」にした方がいいのではないか。