熱海

1997年の秋の連休だったかに、一人で熱海に行ったことがある。
どういうきっかけだったかは忘れてしまったが、とにかく新幹線で
移動して一泊する旅行がしたかったのだ。


当時は東京に住んでいたので、宇都宮と熱海が候補に上り、熱海に
した。なんとなく、そっちの方がよかった、というだけだった。


無謀なことに、旅館の予約もせずに東京駅からこだまに乗り込み、
熱海で降りた。
駅前から海岸方面まで歩いたが、干物屋が多いのにびっくりした。


日が暮れかけて、どこかへ泊ろうと思って、大きなホテルのフロン
トに行ったのだが、ことごとく断られた。
出張でもない一人の男性が飛び込みで泊ろうとしても無理だ、とい
うことを、熱海で初めて学習した。


これはヤバいことになった、とホテルの看板を探して歩き回ったと
ころ、民宿を改装してビジネスホテルにしたようなショボい旅館が
見つかった。


ここはさすがに客をえり好みするようなところではなく、あっさり
と泊めてくれた。
内装もさびしい、うらぶれた一室に案内され、ようやく一息ついた。


食事は何を食べたか、たぶんどこかのラーメンだったと思うのだが、
ほとんど覚えていない。
コンビニか酒屋でビールを買ってきて、一人で飲んで寝た。


帰りは踊り子号で東京まで戻った。
車窓からの景色はすばらしかったけれど、自分が何のために旅行し
たのか、虚しくなった。


そうそう、熱海では海岸を歩いたり秘宝館に行ったりしたんだった。
一人旅の楽しみ方が、いまひとつ分からないまま終わった旅行だった。