あしたの、喜多善男

ハチクロ」がつまんなかったのを、あっさり忘れさせてくれるほど面白かった。


主人公は、連続ドラマ初主演になる小日向文世だ。
オッサンが演じる、オッサンのためのドラマである。


不幸だった人生を吹っ切るために、自殺することを決意したオッサンが、ふとしたことから
キャバクラのスカウトの兄ちゃん(松田龍平)と知り合い、思いがけない世界を垣間見る、
という話で、「生きる」とか「リービング・ラスベガス」を下敷きにしたような設定が良い。
大人が見るドラマだと思う。


私も、毎日死ぬことばかり考えていた時期があり、怖いから自殺できなかったけれど、いま
でも根底にはずっと死ぬことを考えている自分がいる。
すっかり失敗してしまった人生をどうすることもできないまま、ずるずると現在まで生き残
っているのが情けない。


ときに孤独でたまらないときは、死ぬことを考えて気を紛らわせることができる。
なんて書いてはみたものの、実は孤独でたまらないときなんて、今までにほとんどない。
これは友だちのおかげだ。


生きる希望というやつは、そんなに強烈にギラギラ存在しているわけではなく、このドラマ
の主人公のように、真面目に淡々と生きている人にとっては、一瞬のうちにグラつくような
ものである。


ただ、例えばマンションのベランダから落下しそうになったときに、思わず「助けて!」と
言ってしまうように、ギリギリの状況に追い詰められると、やはり生きていたいと思うもの
だろう。
そのあたりのバランスがうまく描かれているのに感心した。


もうひとつ、宵町しのぶという元アイドルを演じている吉高由里子がよかった。
世の中を舐めきった態度や、落ちぶれてもしたたかな感じ伝わってくる。
いいキャスティングだと思う。


主人公の元妻を演じる小西真奈美もいい。
彼女と結婚できただけでも儲けものだろうけど、そこからが不幸の始まりかもしれないし、な
かなか考えさせる設定だ。


これから毎週、眠いのを我慢して見続けられそうである。
地味だから視聴率的には苦戦するかもしれないけれど、私は応援したい。