芝浜

落語名人会(14)

落語名人会(14)

あまりにも有名な落語で、年末にこれを聴く人も多いと思う。
私は古今亭志ん朝のテープしか持っていないが、大晦日にしみじみと「芝浜」を味わって年の瀬の
気分を盛り上げている。


Wikipediaの「芝浜」の項には、主人公の魚屋は勝という名前になっているが、志ん朝のものでは
熊になっている。私は熊さんの方が好きだ。深く問わないでほしいが。


もともと目利きだった魚屋が、酒に溺れて商売をしくじり、どんどん駄目になっていくところから、
芝の海岸で50両(いまだと500万円ぐらい?)も入った財布を見つけて大急ぎで長屋に戻ってくる
あたりまで、一気に聴かせる。
ここから女房の機転で財布はなかったことになって、熊さんは真人間に戻る。


このとき、熊は「人間、ちゃんと働かないとダメだ」と言う。
働かないで楽をしたいと誰でも思うけれど、働いて稼ぐ方がよほど楽なんだ、と。


もともと腕のある魚屋だったから言えることではあるが、そうでなくても働いて金を稼いで、それ
から好きなことに使うのが一番だと、私も思う。
誰に文句を言われることもないし、自分と世間が折り合っている、という実感がある。


ニートの皆さんに、ぜひ聴いていただきたい落語のひとつである。


志ん朝の演出する女房像は、しっかりした情の厚いおかみさんだ。
やり方によっては、鼻持ちならない嫌な女になる可能性もあるが、熊さんがきれいに女房を持ち上
げることで回避している。
口跡の美しい志ん朝ならではの手際のよさと言える。


それにしても、もしこの夫婦に子供がいたらどうしていただろう。
江戸時代の長屋で暮らしている夫婦に、どのくらい子供がいたのか分からないけれど、こうした子
供のいない夫婦というのは、あたりまえのようにいたのだろうか。


なんとなく、上方落語との違いはこのあたりにあるような気がしてならない。


それではみなさま、よいお年を。