新・UFO入門

私は中学生のころ、一度だけUFOを見たことがある。
友だちと天体観測と称してマンションの屋上に上り、お菓子とかジュースを持ち込んでいろんな
話をしていたことがあった。一応、小さい天体望遠鏡を持ち込んではいたが、最初に覗いたきり
で放っておいた。


9時ぐらいになって、もう遅いから帰ろうと思ったとき、北の空をオレンジ色の物体がスーッと
流れるように横切っていった。
友だちも見ていたので、私の目の錯覚ではない。
すげー、UFOだぜー! と騒いだものの、写真も撮ってないし、人に言っても信じてもらえない
だろうし、結局うやむやになってしまった。
いま思うと、あれは山道を走るクルマのライトだったのではなかろうか。


1960年代から70年代にかけては、UFOの話題がかなり盛り上がっており、少年たちは胸をときめ
かせていたものだった。
ところが、いまや宇宙人とか円盤なんて雑誌「ムー」に載るぐらいだ。
なぜそうなってしまったのか、もういちど検証してみようというのが、この本である。

本書では、UFOが報道された最初の事件まで遡り、アダムスキーが登場し、日本でどのような
UFO研究団体が設立され、どういう影響があったかを解説している。
そして、これまで科学的でないと切り捨てていたバカらしい話にこそ、UFOの真実があるのでは
ないか、という結論に至る。


いつだったか、タレントの大槻ケンヂがテレビ番組で、なぜみんなUFOが存在するか否かでしか
話をしようとしないのか、と怒っていたのを見たことがある。
そのスタンスは、まさにこの本で最終的に述べられていることに近い。


UFOや宇宙人の話は、日常から逃れたい人々の心が作る幻のようなものであろう。
ただ、その幻にも流行があり、昔はUFOだったのが、いまは前世とか占いにシフトしているのだ
と思う。


ところで、マンガではUFOネタが本当にたくさんあった。
うる星やつら」では屋上で“ベントラベントラ・スペースピープル”と輪になって呼びかけ
ていたし、「エスパー魔美」ではUFOのニセ写真騒動が作品になっていた。


ていうか、私個人ではとてもフォローしきれないぐらい、UFOや宇宙人は当たり前のネタとして
存在している。
たとえば、すぎむらしんいちの「超・学校法人スタア学園」でも、次のようなコマが落ちになっ
ている回があったが、ちゃんと作者が手書きで『最後の2コマはウソです』と
言い訳(?)している。

もう、90年代の半ばになると、UFOはギャグのネタにもならないほど使い古されたネタになって
いるということか。


しかし、次に紹介する土田世紀の「編集王」11巻のエピソードは違う。感動するのだ。

サブキャラクターである明治という編集者がおり、エロマンガを大ヒットさせているが、実は
少年のころにいじめられていた。
その中学高校時代の回想が、ほぼ単行本の半分を費やして語られており、孤独だった明治の話相
手になっているのが、宇宙人なのである。

ここに登場するUFOや宇宙人は、存在するかどうかという種類のものではない。
いじめられた明治が唯一よりどころにする何かである。
それは彼にしか見えないかもしれないが、彼にとっては絶対に在るものなのだ。


だから、日常を脱出するチャンスが訪れたとき、彼の脳裏にはUFOと宇宙人がハッキリと浮かぶ。

日本で70年代に少年期をすごした人にとっては、UFOはそのような形でリアルだったのだ。
その後、明治はあることをきっかけに吹っ切れて、UFOや宇宙人を見なくなっていく。
切ない話なので、ぜひ読んでみてほしい。


00年にフジテレビでドラマ化されているが、調べてみても明治の役は記載されていない。
たぶん省略されてしまったのだろう。
そういえば、土田世紀は最近どんなマンガを描いているのだろうか?